巨大リング(2024年3月14日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 芸術家の感性は理解するのが難しい。岡本太郎はそんな思いを抱かせる代表格だろう。「芸術は爆発だ」のテレビCMは強烈で、大阪万博(1970年)のシンボル「太陽の塔」も記憶に残る

◆岡本は国立民族学博物館を訪れた際、「自分の仕事をまねた彫刻がたくさんあった」と話した。民族学者の梅棹忠夫さんが「あれは400年前のものですよ」と説明すると、「400年前から俺の作品をまねする奴らがいたんだな」と真顔で応じたという逸話もある。やはり、凡人には理解できない

◆来年4月に開幕する大阪・関西万博の象徴となる木造巨大屋根「リング」の建設が進んでいる。京都・清水寺の「清水の舞台」と同じ「貫(ぬき)接合」という伝統技法が使われ、梁(はり)が柱を貫く。清水の舞台は1633年に再建されており、400年前の技術者は「俺の作品をまねた」と思っているかもしれない

◆1周2キロの巨大リングは会場を囲むように設置され、屋上デッキを歩ける構造。完成すれば世界最大級の壮大な木造建築になるが、万博に対しては「2億円トイレ」が物議を醸すなど巨額の建設費や運営費が批判を受けている

◆清水の舞台から飛び降りるつもりで公費を投じているわけではないだろうが、「万博不要論」を鎮める努力は必要。リングがつながる頃には高揚感が広がっていればいいが…。(知)