同じ国家資格なのに…リハビリ専門職の賃金が上がらない 看護師や薬剤師との格差広がった理由は(2024年2月12日配信『東京新聞』)

 病気やけが、老化などで生活機能が低下した患者の回復を助ける「リハビリ専門職」の賃金は20年来、横ばい状態が続く。この間、同じ国家資格でも看護師や薬剤師などの賃金は増加傾向にあり、医療や福祉、介護分野における「職種格差」が広がっている。春闘の季節、政府が経済界に「物価上昇を上回る賃上げ」を呼びかける中、リハビリの現場でも待遇改善を訴える声が大きくなっている。(佐藤航)

 リハビリ専門職 「座る、立つ、歩く」など基本動作の回復や維持を支える理学療法士、「食事、入浴、家事」など生活動作の回復や社会復帰をサポートする作業療法士、言葉を使ったコミュニケーションの訓練や検査を担う言語聴覚士、視覚の矯正訓練や検査に携わる視能訓練士などがある。これら主要4職種はいずれも国家資格。厚労省によると2022年末現在の有資格者数は理学療法士が約20万2000人、作業療法士が約10万9000人、言語聴覚士が約3万8000人。視能訓練士が約1万8000人。

◆平均月給、20年間で6000円しか上がらず

 「他の仕事を選んでいたらどれくらいもらっていたのか、と思うことはある」
「社会的な役割は大きいのに待遇が見合っていない」と話す作業療法士の男性=神奈川県内で(佐藤航撮影)

「社会的な役割は大きいのに待遇が見合っていない」と話す作業療法士の男性=神奈川県内で(佐藤航撮影)

 神奈川県内の訪問リハビリテーションで働く作業療法士の男性(40)は不満をこぼした。年収は500万円に満たない。小学生以下の娘を3人抱え、同じ作業療法士の妻の収入と合わせても「生活はギリギリ」だという。
 作業療法士は医師の指示の下、病気や加齢などで身体機能が落ちた人が食事や家事、排せつなどをスムーズにできるようになるための訓練やサポートを担う。「高齢化社会で仕事の意義は上がっている。給料が上がらないのはおかしい」
 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、リハビリ専門職(理学療法士作業療法士言語聴覚士視能訓練士)の2022年の平均月給(残業代を含む)は30万1000円。02年の29万5000円から20年間での増加額は6000円にとどまった。この間、薬剤師の平均月給は8万3000円増えて41万5000円に。看護師は、3万2000円増の35万2000円になった。
 これらの職種の賃金は、国がサービスの公定価格として定める診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス報酬の額に影響される。リハビリ職は、看護職や介護職にある事業所の職員の取り組みによって加算額が報酬に上乗せされる評価システムがなかった。リハビリ職は、公的医療機関で働く人のための人事院規則「医療職俸給表」でも、薬剤師や臨床検査技師より等級が低く扱われている。待遇が相対的に下がってしまった要因だ。

高齢化社会で需要は上がるばかり「待遇改善を」

 背景について、日本作業療法士協会山本伸一会長は「医師の指示の下で働くという立ち位置で、経営に参画する人材がほとんどいなかった」と考える。
 待遇の良しあしは、人材確保に影響する。協会の調査では、作業療法士を養成する大学と専門学校の22年度の入学者は定員の77%にとどまった。現役の療法士を対象にしたアンケートでも約57%が「給料が安い」と答えた。
リハビリ専門職の待遇改善を訴える日本作業療法士協会の山本伸一会長=東京都台東区で

リハビリ専門職の待遇改善を訴える日本作業療法士協会山本伸一会長=東京都台東区

 「国や政治にアピールする活動も足りなかった」と山本会長は振り返る。協会は日本理学療法士協会などと昨年、診療、介護、障害福祉サービスの各報酬の「トリプル改定」が行われる24年度を見据え、精力的な要望活動に取り組んだ。この結果、いずれの報酬でも「医療関係職種の給料のベースアップ」を図るという趣旨が盛り込まれた。
 これまでは報酬が引き上げられても、医療機関の経営陣が職員の給料に反映させるとは限らなかった。山本会長は「どのような職場で働いても待遇改善が期待できる」と改定を歓迎。高齢化でリハビリ需要の増加が見込まれる中で「長期的な視点からも、支える私たちの環境改善を真剣に考えてほしい」と求めた。