成年後見制度見直しに関する社説・コラム(2024年3月6日)

成年後見制度見直し 本人の意思尊重目指せ(2024年3月6日『秋田魁新報』-「社説」)

 認知症や知的・精神障害などがある人を支援するための成年後見制度が見直されることになった。2000年の制度開始以来、後見人がひとたび決まると中止や交代が難しいことなどが課題として指摘され、利用が低迷してきた。小泉龍司法相は26年度までの民法などの改正へ向け、法制審議会に諮問した。

 高齢化の進展に伴って認知症などで判断能力が十分ではない人が増え、制度の重要性は一層高まるとみられる。本人やその家族にとって、使い勝手の良い運用ができる改正にしなくてはならない。

 後見人となって認知症などの人を支援するのは弁護士や司法書士のほか、社会福祉士など福祉関係者、親族ら。本人や家族が利用を申し立て家庭裁判所が選定する。本人に代わり預貯金管理や福祉サービスの利用手続き、契約取り消しなどができる包括的な代理権を持ち、日常生活の見守りを担うこともある。

 法務省などによると、22年10月時点で65歳以上の高齢者は約3600万人で、うち認知症の人は数百万人いるとされる。しかし制度の利用者は同年末時点で約24万5千人にとどまっている。

 団塊世代が全員75歳以上となる25年には、認知症の人が700万人前後になるとの推計もある。知的・精神障害者を合わせ支援が必要な人が「1千万人を超える」とみる専門家もおり、利用しやすい制度は時代の要請といえよう。

 現行制度を点検し、問題点を改善することが急がれる。専門家はもちろん、家族や高齢者・障害者福祉の現場、そして今後利用する可能性がある高齢者の声にもしっかりと耳を傾けることが大切だ。

 制度の利用中止が困難な上、家族が後見人の解任を求めることができるのは遠方への転居や資産を使い込まれたなどの理由に限られる点も課題。後見人となる専門職に対する報酬支払いの経済的な負担も大きいとされ、その軽減策も模索しなくてはならない。

 一方で後見人のなり手不足も深刻だ。これは制度見直しだけでは済まない課題といえよう。

 厚生労働省は地域住民による「市民後見人」の育成、利用者の相談窓口となって家裁など関係機関同士の調整役を担う「中核機関」の市区町村への設置を促進しようとしている。思うように進んでいないという現実はあるが、改善に向けて多方面から取り組まなくてはならない。

 法制審には制度見直しとともに、自筆の遺言をパソコン入力などデジタル作成することを認める見直しも諮問された。後見制度でも従来のように専門職に頼るだけではない新しい仕組みづくりにも目を向けたい。

 認知症や知的障害などのある人の意思が尊重され、不安のない生活を送れるようにする制度見直しが望まれる。それが家族の安心にもつながるはずだ。

   
成年後見見直し(2024年3月6日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆使いやすく安定した制度に◆

 認知症や知的障害で判断能力が十分ではない人の財産管理、相続手続きなどを支援する成年後見制度が変わる。超高齢社会に欠かせない仕組みといわれながら、2000年の制度開始以来、何かと使い勝手の悪さを指摘され、利用は低迷。どうすれば使いやすくできるか。民法などの改正に向け、法相が法制審議会に見直しを諮問した。

 成年後見人は本人や家族、市区町村の申し立てで裁判所が選任。弁護士や司法書士ら専門職が多い。だが判断能力が回復しない限り、途中で利用をやめられず、利用者は生涯、月2万~6万円の報酬を払い続ける。また預貯金の使い込みなど不正でもなければ、後見人の交代は認められない。

 利用者のニーズに合わせ、柔軟に後見人の交代をできるようにするのが見直しの柱の一つだ。例えば、相続など大きな問題が解決した時点で専門職から、地域住民が引き受ける市民後見人や親族後見人に引き継ぐ。負担軽減や生活・医療などを支援する身上保護の充実につながるだろう。ただ自治体が担う市民後見人の養成は遅れている。

 本人や家族からの相談に対応する市区町村の「中核機関」設置拡大を含め、早急に制度の安定を図る必要がある。

 弁護士や司法書士社会福祉士、親族らが裁判所の審判を経て、本人の判断能力が低い順に成年後見人、保佐人、補助人に選任される。全体の8割以上が専門職。中でも後見人は本人による契約を取り消したり、本人に代わり契約を結んだりする強い権限を持つ。後見などの報酬は平均で年約33万円。無報酬で受任する市民後見人もいる。

 ところが後見人が財産保護を重視し家族旅行に待ったをかけるなど本人の意向を無視する例があり、財産管理ばかりで身上保護をしてくれないと不満の声も聞かれる。

 今後、後見人の交代のほか、期間制の導入や権限の制限、報酬の算定基準などが議論される見通しだ。そんな中、市民後見人の確保が大きな課題となろう。近年、身寄りのない高齢者が増え、市区町村による後見などの申し立てが増加傾向にあるからだ。

 なり手不足の背景には責任の重さへの不安があるとみられ、自治体が研修・養成やサポート態勢の拡充を急がなくてはならない。

 課題はまだある。政府は当初、21年度中に全市区町村への中核機関設置を目指したものの思うように進まず、目標の達成を3年先送りした。いまだ道半ばだ。使いやすさに加え、本人の意思と尊厳をいかに尊重するか、もっと議論を深めたい。