認知症や知的障害で判断能力が十分ではない人の財産管理、相続手続きなどを支援する成年後見制度が変わる。民法などの改正に向け、法相が法制審議会に見直しを諮問した。超高齢社会に欠かせない仕組みといわれながら、2000年の制度開始以来、何かと使い勝手の悪さが指摘され、利用は低迷。どうすれば使いやすくできるか。本県は高齢化率が全国上位で、今後も上昇が見込まれる。自身や家族などの老いに備え、議論の行方を注視したい。
成年後見人は本人や家族、市区町村の申し立てで裁判所が選任。弁護士や司法書士ら専門職が多い。だが判断能力が回復しない限り、途中で利用をやめられず、利用者は生涯、月2万~6万円の報酬を払い続ける。また預貯金の使い込みなど不正でもなければ、後見人の交代は認められない。
利用者のニーズに合わせ、柔軟に後見人の交代をできるようにするのが見直しの柱の一つだ。例えば、相続など大きな問題が解決した時点で専門職から、地域住民が引き受ける市民後見人や親族後見人に引き継ぐ。負担軽減や生活・医療などを支援する身上保護の充実につながるだろう。ただ自治体が担う市民後見人の養成は遅れている。
報酬に不満のある専門職の後見人離れも進んでいるとされ、制度が変わっても、十分機能させる人手が足りなくなっては元も子もないと懸念が広がる。本人や家族からの相談に対応する市区町村の「中核機関」設置拡大を含め、早急に制度の安定を図る必要がある。
弁護士や司法書士、社会福祉士、親族らが裁判所の審判を経て、本人の判断能力が低い順に成年後見人、保佐人、補助人に選任される。全体の8割以上が専門職。中でも後見人は本人による契約を取り消したり、本人に代わり契約を結んだりする強い権限を持つ。後見などの報酬は平均で年約33万円。無報酬で受任する市民後見人もいる。
ところが後見人が財産保護を重視し家族旅行に待ったをかけるなど本人の意向を無視する例があり、財産管理ばかりで身上保護をしてくれないと不満の声も聞かれる。制度を巡り22年、国連の障害者権利委員会は「障害者の法的能力の制限を許容し、民法の下で意思決定を代行する制度を永続して、障害者が法律の前に等しく認められる権利を否定する」と懸念を表明。廃止を求めた。
今後、後見人の交代のほか、期間制の導入や権限の制限、報酬の算定基準などが議論される見通しだ。そんな中、市民後見人の確保が大きな課題となろう。なり手不足の背景には責任の重さへの不安があるとみられ、自治体が研修・養成やサポート態勢の拡充を急がなくてはならない。また、政府は当初、21年度中に全市区町村への中核機関設置を目指したが思うように進まず、目標の達成を3年先送りした。いまだ道半ばだ。
団塊の世代が全員75歳以上となる25年に認知症の人が700万人前後になるとの推計があるが、制度利用は22年度末で24万人余り。使いやすさに加え、本人の意思と尊厳をいかに尊重するか、もっと議論を深めたい。