成年後見の改革 誰もが使いやすい制度に(2024年2月28日『西日本新聞』-「社説」)

 認知症や知的障害、精神障害のある人が安心して暮らすために、成年後見は必要な制度である。

 判断能力が十分でないと、預貯金の引き出しや行政手続き、福祉サービスの利用契約ができない場合がある。そこで本人の代わりに手続きをして、権利と財産を守るのが後見人だ。不利益な契約を取り消すこともできる。

 利用者は2022年末で24万5千人にとどまる。認知症の人が推計で600万人以上いることを考えれば低調と言える。制度は柔軟性に欠け、使い勝手がよくないようだ。

 小泉龍司法相は今月中旬、制度の見直しを法制審議会に諮問した。00年に介護保険制度と同時に導入されて以来、抜本的に見直すのは初めてとなる。

 高齢化が進み、後見人に求める支援は多様化している。誰もが利用しやすい仕組みに変えなくてはならない。

 成年後見には、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、判断能力があるうちに本人が将来に備えて選ぶ「任意後見」がある。

 現状は大半が法定後見で、専門職の弁護士や司法書士社会福祉士社会福祉協議会NPOなどの法人、養成講座を受けた市民後見人らが後見人に選ばれる。

 親族は2割程度だ。使い込みなどの不正行為が多かったことや、財産管理を任せられる親族がいない人が増えたためとみられる。

 最大の難点はいったん後見人を決めると、事実上亡くなるまで終了できないことだ。

 後見人の報酬は財産額などによって家裁が決める。最高裁の調査では月平均約2万8千円だった。不動産の処分や相続で制度を利用した人は、手続きを終えた後も報酬の支払いが続く。

 時がたてば利用者のニーズも変わる。当初は弁護士が適任であっても、介護の必要性が増せば福祉分野の専門職がふさわしい。現行制度は後見人が不正行為をしない限り、交代は難しい。

 法制審は一定期間で利用を終える期間制の導入を検討する。利用者の状況に応じ、後見人が交代しやすい仕組みも必要だろう。

 強過ぎるといわれる後見人の代理権を制限する議論も避けられない。財産管理が厳しく、利用者が望んでも支出できなかった事例が報告されている。本人の意思は最大限尊重されるべきだ。

 面識のない専門職より、信頼できる人に託したいとの要望は根強い。親身になってもらえない不安が根底にある。後見人のほか地域の福祉団体や自治体などが連携し、チームで利用者を見守る体制づくりを急ぎたい。

 後見人のなり手不足や偏在も課題だ。市民後見人の育成や対応できる法人を増やす必要がある。資産の少ない人が利用できるように助成制度の拡充も欠かせない。