子育て増税?実質負担なし? 国民から「月500円弱」徴収する子育て支援金、岸田首相の説明が分からない(2024年2月12日配信『東京新聞』)

 政府が少子化対策の財源確保のために2026年度から公的医療保険料と併せて徴収する「子ども・子育て支援金」を巡り、野党が「子育て増税だ」との批判を強めている。岸田文雄首相は国会で1人当たりの徴収額を月平均500円弱と示したが、「実質的な負担は生じさせない」と繰り返す。保険料として徴収しながら「負担なし」とする複雑な説明は、国民の納得を得られるだろうか。(井上峻輔、坂田奈央)

◆やっと示した「粗い試算」

 「負担増なのに支援金という言葉でごまかしてきた。あり得ない」。立憲民主党泉健太代表は9日の記者会見で、首相の説明を批判した。政府は支援金制度の創設を盛り込んだ「子ども・子育て支援法等改正案」を16日にも閣議決定し、月内に国会に提出する方針だ。
衆院予算委に臨む岸田首相=9日、国会で

衆院予算委に臨む岸田首相=9日、国会で

 首相は6日の衆院予算委員会で「粗い試算」として徴収額を初めて表明。支援金が総額1兆円となる28年時点で「月平均500円弱」になると述べたものの、医療保険と併せて徴収するため、実際は加入する保険制度や所得によって金額は異なるとした。
 答弁を引き出した立憲民主党の早稲田夕季氏は「国民負担ゼロどころか事実上の子育て増税だ」と主張。「年間なら6000円。いや、1万円かもしれない。共働き世帯だったら2万円かも。『負担が増えない』という言葉を撤回してほしい」と迫った。首相は従来通り「賃上げと歳出改革によって社会保険負担の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を用意するので、実質的な負担は生じない」と応じ、その後も同様の答弁を繰り返した。

◆「実質」の意味するところは?

 「実質負担なし」は本当なのか。6日の衆院予算委で国民民主党玉木雄一郎代表は「支援金が実質負担にならないために必要な賃上げはいくらなのか」と詰め寄った。だが、首相は「賃上げと歳出改革の両方を活用することで…」と繰り返して正面から答えず、不誠実な印象を残した。
 交流サイト(SNS)では「月500円弱」という言葉がトレンドワード入りし、政治とカネの問題も踏まえた厳しい声が相次いでいる。
  政府は医療・介護分野の歳出改革によって保険料負担の伸びを抑えるとするが、医療・介護従事者の賃上げも掲げる。賃上げが保険料上昇の要因となるが、政府は「賃上げによる保険料の増加分は『負担』に算定しない」などつじつま合わせのような主張も目立つ。野党からは「国民に『きちんと負担してください』と言うべきだ」(立民・奥野総一郎氏)と真摯(しんし)な説明を求める声も上がる。
 少子化対策の具体化に向けた政府会議で提言した東大大学院の山口慎太郎教授は「『実質負担なし』との説明は受け入れがたい。国民の反発を避けたいという思いがあるのだろうが、具体的な支援メニューをまとめた以上、給付だけでなく負担とセットで丁寧に説明するべきだ」と話す。

 政府の少子化対策 岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を掲げ、児童手当や育児休業給付の拡充、親の就労の有無を問わず保育を利用できる制度を盛り込んだ「こども未来戦略」を2023年12月に閣議決定した。国と地方を合わせて新たに年3兆6000億円規模の予算を充てる。財源確保の仕組みが整う28年度には、既定予算の組み替えで約1兆5000億円、社会保障の歳出改革で約1兆1000億円、「子ども・子育て支援金」で約1兆円を捻出する。支援金の徴収は26年度から始め、段階的に引き上げる。