手話教育守った「ヒゲの校長」の伝記映画、各地で上映会 当事者が「合う教育」選べることこそ(2024年2月11日配信『東京新聞』)

手話教育守った「ヒゲの校長」の伝記映画、各地で上映会 当事者が「合う教育」選べることこそ

「ヒゲの校長」から ©聾宝手話映画

「ヒゲの校長」から ©聾宝手話映画

 手話が「手まね」と低くみられていた100年前、手話教育を守ろうと奔走した教育者がいた。大阪市立聾唖(ろうあ)学校で28年間校長を務めた高橋潔(1890-1958年)。彼の伝記映画「ヒゲの校長」(谷進一監督)が昨年完成し、共感した人たちが各地で上映会を開いている。 (石原真樹)
 映画は実話に基づき、聴覚障害児の教育に半生をささげた高橋と仲間たちを描く。手話に関わる映画を撮影する京都のグループ「聾宝手話映画」が手がけた。
高橋潔(大阪府立中央聴覚支援学校所蔵)

高橋潔(大阪府立中央聴覚支援学校所蔵)

 高橋は音楽家になる夢を断念し1914年、後の大阪市立聾唖学校(現・大阪府立中央聴覚支援学校)に着任、24年に校長になった。当時は口の動きを読み取って発語する「口話法」が全盛で、手話は口話習慣を崩すとして否定されていた。高橋は、口話ができるのは耳の聞こえない子どもの一部に限られ、手話が必要な子もいるとの信念から、残った聴力など適性に応じて手話や口話、指文字を組み合わせる教育を教員仲間と考案、手話を守った。

◆ろう者の尊厳のため

 映画のヤマ場は、33年に開かれた全国のろう学校校長会。文部大臣が口話法を奨励する中、高橋は演台に立ち「心豊かに表現するには手話が必要。奪ってはならない」と訴える。彼が守ろうとしたのはろう者の尊厳だ。「聞こえないこと、手話を使い生きること、どこに恥じることがあるのか」
 上映会は1月、暗闇や静寂の中での対話体験を提供する「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム『対話の森』」(東京都港区)で開かれた。上映後のトーク聴覚障害があり同館で案内役を務めるまっちゃさん(49)=サインネーム(手話で表現するあだ名)=が登壇。特別支援学校でも家庭でも口話教育が盛んで、発話訓練に時間を取られて本来の学習が遅れ、「発話の時間」になってしまうため母親に話しかけなくなった子ども時代を振り返った。「手話も口話もそれぞれ合う教育を選べることが大切」と力を込めた。
 日本のろう教育・難聴教育の現状について全日本ろうあ連盟教育・文化委員会の山根昭治委員長は、障害の程度に応じて音声や文字、手話、指文字等を適切に活用することが学習指導要領に明記され、多くの学校で手話言語による教育が広がっているとしつつ「教職員が手話言語習得のための時間を確保することが難しいという課題があり、差が出ている」と指摘する。
「ダイアログ・イン・サイレンス」の様子=「対話の森」提供

「ダイアログ・イン・サイレンス」の様子=「対話の森」提供

 上映会情報は映画の公式サイトで。「対話の森」では、静寂の中で対話や手話を体験するプログラム「ダイアログ・イン・サイレンス2024」を開催中(25日まで)。
映画「ヒゲの校長」の公式サイトはこちらから