<書評>『よっちぼっち 家族四人の四つの人生』齋藤陽道(はるみち) 著(2024年2月11日配信『東京新聞』)

◆幸せの形を見つめ直す
[評]本上まなみ(俳優、エッセイスト)

 ひとりぼっち。ひとりは良いけど、ぼっちはな~って思う人、多そうですね。そのひとりぼっちが4人集まった、という意味で自らの家族のことを「よっちぼっち」と名付けたのが著者の齋藤陽道さんです。ひょこひょこしたリズム感は、愛らしく愉快な気分。個人が集まった、という成り立ちから、家族みんな上も下もなく横並びの関係性であることが一発で示された秀逸なタイトルだ。
 ろう者であり、写真家である著者のあり方は常に相手の目線に合わせることから始まっている、というのが第一の印象。連れ合いのまなみさんもまたろう者で、一方2人の息子さんは聞こえる、いわゆる「コーダ」と呼ばれる子ども。一家は、手話を言葉として身ぶり手ぶり、見つめ合い、身体に触れ合ってコミュニケーションを取る。
 声でのやりとりなら、よそ見していても耳を傾ければ理解できる。けれど手話ならば目線を合わせるのは不可避なのでしょう。目と目を合わせて伝え合うことの大切さを私はかなり忘れていたように思います。
 圧倒されるのは、声に頼らないコミュニケーションの密度の濃さです。常に向き合って語られる言葉。相手に触れることで伝えられる気持ち。わが子が眠りに落ちる瞬間まで小さな手を伸ばして著者の顎を繰り返し指で触れ、「好き」という言葉を伝え続けたというエピソードは特に印象的で、こんな幸せの形があるのかと、じんとしました。
 生糸のようにつややかで絹のような美しい文章です。行間からにじみ出る人柄、誠実さは、本来の気質に加え、手話を言葉として使うことでますます磨かれたのだと思います。時折挟まれる色つきの写真にも、一家の日常のかけがえのないひとときが収められています。自ら「写真は関係性の結晶」と書かれていますが、ほんと、真実ですね。
 家族のあり方を見つめ直すきっかけをいただきました。ありがとう。
暮しの手帖社・2200円)
1983年生まれ。写真家。2014年、日本写真協会新人賞受賞。

◆もう一冊