緊急時の伝達が困難 市手話言語推進協議会(2024年6月1日『八重山毎日新聞』)

キャプチャ
課題や今後の施策について意見交換する委員ら=5月30日午前、石垣市役所
条例施行から5年 市民の理解普及など課題
 石垣市手話言語推進協議会(会長・本村明石垣聴覚障がい友の会会長、10人)の2024年第1回会議が5月30日午前、市役所2階大会議室で開かれた。市手話言語条例は19年4月に施行されているが、同条例に基づき施策内容の検討や実施状況の確認を行う推進協議会の開催は21年以来3年ぶり。災害時の緊急情報などの把握が難しいことや市民の手話への理解普及が進んでいないなどの課題が改めて浮かび上がった。
 条例施行後、市は手話出前講座や手話奉仕員養成講座、手話通訳者・要約筆記者の派遣、理解促進のためのリーフレット配布などを実施。毎月第3水曜日を「手話言語推進の日」と定め、手話サポート教室や市職員向け手話サロンを開催している。
 23年度は意思疎通支援事業で年間実派遣件数220件、延べ派遣人数305人。出前講座は受講生15人。手話奉仕員養成講座は同15人、手話サポート教室は同81人だった。
 一方で▽視覚的に訴える情報などの整備が少ない▽職場や医療現場などでの手話に対しての理解や普及が進んでいない▽災害時の対策などに不安がある▽多くのろう者が観光に訪れるも観光ガイドの話が分からない▽ろう児に対する保育や教育などの情報が非常に少ない―などの課題も。
 4月3日の台湾東部沖地震で発令された津波警報について本村会長は「地震に気づかず警報も全く分からなかった。仕事中で携帯の連絡も気づかず、娘が呼びに来てくれて分かった」と報告。他の聴覚障がい者の委員からも「地震などは体感で把握することもあるが、ミサイルなどの警報は気づきにくい」との指摘があった。
 防災危機管理課の職員は「災害時において防災行政無線(音声)やSNS(文字)など、可能な限り多様な媒体を使って情報発信していることころだが、ちゃんと当事者へ伝わっているのか気になっている。避難所でのコミュニケーションの手段として手話が大事になるのではないかと考えている」と報告した。
 委員からは「条例の推進や『手話言語推進の日』などに関しての市民に向けてのPRが少ないのではないか」という指摘もあった。
 本村会長は「石垣市手話言語条例の制定が決まったときは本当にうれしかった。今後、推進協議会で手話を広めていきたい。みなさんに手話に興味を持ってもらいたい」と期待した。
 第1回会議に先立ち、今年度の委員に中山義隆市長から委嘱状が交付された。会長以外の委員は次の皆さん。
 ▽副会長=南風野哲彦副会(福祉部長)=委員=松尾次郎(石垣聴覚障がい者友の会事務局)、南風盛直子(八重山手話通訳を考える会会長)、福島邦子(石垣手話サークル碧の会事務局)、下地寛正(石垣市商工会副会長)、仲里和樹(石垣市社会福祉協議会)、前盛良太(福祉部子ども未来局子育て支援課課長)、富浜公雄(総務部防災危機管理課課長)、上原太郎(教育部学校教育課課長)
 

石垣市手話言語条例

 

公布:2019年3月18日

施行:2019年3月18日

 

手話は言語である。

言語は、お互いの感情や意思を分かり合い、知識を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、人類の発展に大きく寄与してきた。

手話は、音声言語と異なり、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語である。ろう者は、物事を考え、お互いの気持ちを理解するための言語として、手話を大

切に育んできた。

しかし、これまで手話が言語として社会的に認められてこなかったことや、手話を使用することができる環境が整えられてこなかったことなどから、ろう者は多くの不便や不安を感じながら生活してきた。

石垣市においては、現在ろう学校はなく、ろう学校へ進学するには、家族と共に沖縄本島や県外へ移住するか、又は家族の元を離れ寄宿舎生活等をしなければならない。また、過去においてもそのような歴史もあった。

昭和40年沖縄県内で風疹による聴覚障がい児が多く出生したことにより、石垣市でもその生徒達の為に、沖縄県立北城ろう学校八重山分校が設立された。しかし、手話を習得する授業はなく、自主的に地域の手話サークルに通い手話を身につけた経緯がある。

その後も聴覚障がい児が生まれ、育つ環境の中で、手話を獲得する機会はほとんどなかったと言える。

こうした中、障害者の権利に関する条約や障害者基本法において、手話は言語であると規定され、手話を取り巻く環境も改善されたが、手話に対する歴史的な経緯もあり十分に理解されている状況とは言えない。

手話を言語として認知し、手話への理解を広げ、地域で支え合いながら、全ての市民が安心して暮らすことができる幸せあふれる石垣市を目指し、この条例を制定するものである。

 

石垣市手話言語条例

 公布:2019年3月18日

施行:2019年3月18日

(目的)

第1条 この条例は、市民の手話への理解、普及を図ることにより、手話を使いやすい環境を構築し、手話を必要とする者が安心して暮らすことができる地域社会を実現することを目的とする。

(基本理念)

第2条 ろう者とろう者以外の者が、相互に人格と個性を尊重し、手話が意思疎通を行うために必要な言語であるとの認識の下に、手話の普及を図り、共に安心して暮らすことが出来る地域社会の実現を目指すものとする。

(市の責務)

第3条 市は、市民の手話への理解を広げ、その普及と、使いやすい環境を構築するための施策を推進するものとする。

(市民の役割)

第4条 市民は、手話への理解を深め、市が推進する手話に関する施策に積極的に協力するよう努めるものとする。

(ろう者等の役割)

第5条 ろう者及び手話の関係団体は、手話の普及に関する施策に協力するとともに、自主的に普及啓発を行うよう努めるものとする。

教育機関等の役割)

第6条 教育機関、保育施設等は、手話への理解や学ぶ機会及び手話に触れる機会の確保に努めるものとする。

(事業者の役割)

第7条 事業者は、手話通訳者派遣制度の活用等、手話を必要とする者が働きやすい環境の整備に努めるものとする。

医療機関の役割)

第8条 医療機関は、手話通訳者派遣制度の活用等、手話を必要とする者が安心して医療を受けられる環境の整備に努めるものとする。

(施策の推進)

第9条 市は、次に掲げる施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

(1)手話への理解及び普及を図るための施策

(2)ろう者が手話で情報を得る機会の拡充のための施策

(3)手話通訳者等の拡充に関する施策

2 市は、諸施策の推進にあたり、別途協議の場を設けるものとする。

3 市民の手話に対する関心と理解を深めるため、毎月第3水曜日を手話推進の日と定める。

(災害時の対応)

第10条 市は、災害時において、手話が必要な者に対し、手話等による情報の提供及び意思疎通の支援のために必要な措置を講ずるものとする。

(旅行者その他の滞在者への対応)

第11条 市、市民及び事業者は、手話を必要とする旅行者その他の滞在者に対し、手話への理解ある対応を行い、利用しやすいサービスを提供するよう努めるものとする。

(財政上の措置)

第12条 市は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

(委任)

第13条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。