「アイアンホース(鉄の馬)」は…(2024年9月11日『毎日新聞』-「余録」)

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2度目の優勝後、優勝額贈呈式で記念撮影に応じる玉鷲=東京・両国国技館で2023年1月7日、長谷川直亮撮影
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涙をこらえ、引退の記者会見をする青葉城愛知県体育館で1986年7月17日
 「アイアンホース(鉄の馬)」は戦前の米大リーグでベーブ・ルースと共にヤンキースを支えたルー・ゲーリッグの愛称だ。2130試合連続出場という大記録を打ち立てた強じんさへの賛辞だった
 
▲その記録を破った広島の衣笠祥雄(きぬがさ・さちお)さんは「鉄人」と呼ばれた。背番号28が「鉄人28号」と重ねられたが、3に変わってから本領を発揮した。同時代に大相撲の「鉄人」として親しまれたのが仙台出身の青葉城だ。60年前の東京五輪の年からバブル期まで20年以上土俵を務めた

▲そんな「鉄人列伝」に新たな名が刻まれた。青葉城の記録を超える歴代1位の1631回連続出場を果たした玉鷲。2004年の初土俵以来「軽トラ同士の衝突」とも形容されるぶつかり合いを続けたことを思えば驚異的な頑丈さだ
▲入門前は相撲経験がなかった。青葉城とも共通する。モンゴルの大学時代に恵まれた体を生かす相撲を志した。来日してもツテがなくモンゴル出身力士の先駆け、旭鷲山を頼った。鷲の字がその縁という
▲続けたくても実績を残さなければ淘汰(とうた)されるのがプロの世界だ。親方が「30歳になってから花開いた不思議な力士」と語るとおり、34歳で初優勝し、37歳10カ月の最年長優勝も果たした
▲いじめなどで不登校になる子も多く、皆勤賞が廃止になる時代だ。無理に毎日通う必要がなくても、こつこつと積み重ねる価値は忘れずにいたい。あと3年の皆勤で通算最多出場記録も更新可能な「アラフォー」力士。その業績は名横綱に劣らない。