大相撲夏場所 大の里が初優勝 初土俵から7場所目で(2024年5月26日『NHKニュース』)

大相撲夏場所は千秋楽の26日、23歳の新小結・大の里が12勝3敗の成績で初優勝を果たしました。初土俵から7場所目での初優勝は幕下付け出しの力士としては最も早い記録となります。

大の里「最高の結果」

優勝した大の里は目に涙を浮かべながら支度部屋に戻り「優勝したんだなと実感が沸いた。優勝はずっと意識していた。15日間は長かったが、最高の結果で終われてよかった」と喜びを語りました。

また25日、師匠で元横綱稀勢の里二所ノ関親方から「これが終わりじゃないぞ」と声をかけられていたことを明かし、「そのことばを聞いて気持ちが楽になった。この一番に集中することができた」と話しました。

そして「親方の言うことを守って、稽古に精進して上へ上へと頑張りたい」と次の目標を見据えていました。

また、優勝インタビューでは「初場所春場所で惜しいところまでいったが、優勝できなかった。初場所から幕内での優勝が夢から目標に変わり、その目標を達成できてうれしい」と喜びを語りました。

優勝を決めたあと、土俵下で待っているときの心境については「きのう親方からは優勝しても喜ぶなと言われたので、冷静にということを意識していた」と話していました。

また「去年、夏場所でデビューして1年後に幕内で優勝することは想像していなかったのでうれしい」と率直な思いを述べました。

そして、ことし1月に能登半島地震で被災した地元の石川県に向けては「優勝する姿を石川県の方に見せられてうれしい」と述べ最後に「強いお相撲さんになっていきたい」と力強く話しました。

大の里とは

大の里は石川県津幡町出身の23歳。

身長1メートル92センチ、体重181キロの恵まれた体を生かした圧力をかけた押し相撲が持ち味です。

相撲の強豪、日体大時代に2年連続で「アマチュア横綱」に輝き、大学卒業後の去年5月の夏場所で幕下10枚目格付け出しとして初土俵を踏みました。

その後、去年の秋場所新十両への昇進を果たすと、力強い立ち合いから大きな体を生かした押し相撲を持ち味に2場所続けて12勝3敗のふた桁勝利を挙げ、ことしの初場所で新入幕を果たしました。

初土俵から新入幕までは所要4場所と、昭和以降では3番目に並ぶスピード出世でした。

そして新入幕からは2場所続けて11勝4敗の成績で三賞を連続で受賞し、先場所では千秋楽まで優勝争いに加わるなど実力を示していました。

今場所では西の小結に昇進し、幕下付け出しの力士では平成26年九州場所で関脇に昇進した逸ノ城の所要5場所に次いで昭和以降では2番目に早い所要6場所での新三役昇進を果たしていました。

わずかな期間の経験を糧にスピード出世

初土俵からわずか7場所目で初優勝を果たした大の里。

スピード出世の中でも1場所1場所の経験を確実に成長つなげたことが最高の結果につながりました。

今場所からようやくちょんまげを結えるようになった23歳、大の里。

学生時代には2年連続でアマチュア横綱に輝くなど、華々しい実績を積んできましたが大相撲の世界では去年5月に初土俵を踏んでからわずか10か月あまり、幕下と十両を2場所ずつ、幕内は3場所目と経験の少なさは否めません。

それでも、その少ない経験を効果的に糧としてきたことが成長につながっています。

新入幕で臨んだ初場所では上位陣の力、そして結びの一番の重みを肌で感じました。

9日目に勝ち越しを決めると、10日目からは場所後に大関昇進を果たす琴櫻大関・豊昇龍、そして、結びの一番での横綱照ノ富士と、上位陣との対戦が続きました。

すべてに敗れて3連敗を喫しましたが「後半の三番や結びの一番の雰囲気が全く違うというのが分かった。上位は一番に対する思いが違う。負けをむだにせず、この経験を来場所に生かしたい」と静かに闘志を燃やしていました。

続く先場所では、その上位陣から相次いで白星を挙げました。

番付も上がり、最初の三役との対戦は9日目、関脇・若元春との一番でした。

立ち合いから力強い当たりで一気に土俵際まで押し込むと左を差されながらも休まず攻め続け、実力者を圧倒。

三役から初白星を挙げました。

「先場所よりは成長できている」と手応えを口にすると、11日目には結びの一番で大関貴景勝に押し出しで勝って今度は大関からの初白星。

初場所ではね返された壁を乗り越え、最終的には大関2人を含む4人の役力士から白星を挙げました。

一方で、わずかに届かなかったのが優勝です。

千秋楽まで優勝の可能性は残っていましたが、初日から11連勝と快進撃を続けた尊富士が110年ぶりの新入幕優勝を果たした。

「優勝したかったのが率直な思い。支度部屋でバンザイを尊富士関がやると思うと悔しい」と心の内を明かしていました。

そして、迎えた今場所。

西の小結の地位で臨んだ大の里は初日、いきなり横綱照ノ富士との一番が組まれました。

初場所では力負けした相手ですが、立ち合い、胸から強く当たりにいくと、ここから成長を見せました。

すぐに右を差すと、もろ差しの形をつくり、完全に自分優位とすると少しずつ寄っていき、照ノ富士に投げを許さず、最後は「すくい投げ」で快勝。

2回目の対戦で横綱戦初白星を挙げ、「納得できる相撲ができてよかった。前回の対戦はめちゃくちゃ当たって走ることだけを考えていたが、それではだめだと自分なりに考えて相撲を取ってよかった」と手応えを口にしました。

師匠で元横綱稀勢の里二所ノ関親方はこの一番について「本場所の一番は稽古場の千番、一万番くらいの価値がある」と大の里が積んでいる経験の大きさを表現します。

上位総当たりの地位ながらその後も白星を積み重ね、大関の2人、霧島と琴櫻からも初白星を挙げると、14日目を終えてついに優勝争いの単独トップに立ちました。

上位陣の力を実感した初場所、そして優勝を逃すくやしさを味わった春場所

期待の若手は濃密な経験を力に変えて初土俵からわずか7場所目で憧れの賜杯を手にしました。

大の里 優勝の記録

新入幕から3場所目での優勝は年6場所制が定着した昭和33年以降では元横綱佐田の山に並んで2番目に早い記録です。

新三役での優勝は昭和32年夏場所で新小結・安念山、のちの元関脇・羽黒山が優勝して以来、67年ぶりです。

また、元横綱稀勢の里二所ノ関親方が師匠を務める二所ノ関部屋で優勝した力士は初めてです。

石川県出身力士の優勝は元大関・出島が関脇だった平成11年の名古屋場所以来、25年ぶりです。

大の里が技能賞と殊勲賞

大相撲夏場所三賞選考委員会が開かれ、初優勝を果たした新小結・大の里が技能賞と殊勲賞を受賞しました。

夏場所三賞選考委員会は26日、東京・両国の国技館で開かれ、初優勝を果たした大の里が技能賞を受賞しました。

大の里は初日に横綱照ノ富士を破るなど恵まれた体格を生かして前に出る相撲で12勝3敗の成績を収めました。

技能賞は2場所連続の受賞です。

大の里は優勝の条件を満たしたため、殊勲賞もあわせて受賞しました。

敢闘賞は、新入幕で10勝5敗の成績を収めた欧勝馬が、初めての受賞となりました。

八角理事長「内容が立派 先もある」

日本相撲協会八角理事長は初優勝を果たした小結・大の里について「内容が立派だった。ラッキーで勝った優勝ではなかった。これから先もあるわけだから駆け上がってほしい」と絶賛しました。

あえて番付を上げる上での課題を挙げてもらうと「ひざを鍛えて腰をおろすことだろう。けがしない体を作ってほしい」と期待を込めて話しました。

千秋楽まで優勝争いに絡んだ2人の大関については「よく最後まで頑張った」とねぎらった上で「この2人にとっても、大の里は下の力士というより、優勝争いでのライバルだろう」と話していました。

高田川審判部長「最高の相撲」

日本相撲協会の高田川審判部長は初優勝した大の里について「最高の相撲だった。豊昇龍に敗れてからがらっと変わった。前に出る圧力が尻上がりに出てきて、いい相撲だった」と相撲内容を高く評価しました。

来場所、大関昇進への機運が高まるかについては「それはまだわからないが、基本的には三役に上がってから3場所だ」と話し、「大関昇進は扉を握って、開いて、入る。いまは握っているところだ」と大関昇進の起点に立っているという認識を示しました。

一方、優勝を逃した大関陣に向けては「悔しいと思うが、いっそう稽古に励んで来場所につなげてほしい」と期待をかけていました。

出身地の石川 津幡町 パブリックビューイングで歓声

大の里の出身地石川県津幡町では、パブリックビューイングが行われ大の里の優勝が決まった瞬間、会場は大きな歓声に包まれました。

大の里の出身地、津幡町では、地元の人たちが応援しようと、町役場の町民プラザでパブリックビューイングが行われました。

会場に用意された120席は早い段階で埋まり、役場内に別に設けられた会場と合わせておよそ400人が集まりました。

大の里の取組を迎えると会場からは声援が上がり、阿炎を倒して優勝が決まった瞬間ほとんどの人が立ち上がって、大きな歓声を上げていました。

津幡町の50代の女性は「能登半島地震で石川県が大変な中、優勝を決めてくれて勇気をもらいました。大の里は石川県の誇りです」と話していました。

大の里が小学生の時に通っていた相撲教室に所属する小学6年生の男の子は「自分たちの先輩が優勝してくれて誇らしい気持ちです。自分も大の里のような力士になれるよう練習したいです」と話していました。

また、大の里を小学生だった時にコーチとして指導した岩脇進一さんは「まさか自分たちの地域から優勝する力士が出るとは本当に信じられないです。大の里の活躍で子どもたちにも相撲がもっと身近になってくれるとありがたいです」と話していました。

地震の被災地 輪島でも喜びの声

能登半島地震の被災地、石川県輪島市でも喜びの声が聞かれました。

市内で飲食店を営む30代の男性は「県内出身の力士の久しぶりの優勝ということで、とても嬉しいです。被災した私たちに勇気を与えてくれ、前向きな気持ちになります。これからも優勝を重ねて地元を盛り上げてくれる存在になってほしいです」と話していました。