パリ・オリンピックの体操女子個人総合で金メダルを獲得した米国のシモーン・バイルス選手=2024年8月1日、AP
パリ・オリンピックの体操女子個人総合で金メダルを獲得した米国のシモーン・バイルス選手は2日、Xに「私にとっての『黒人の仕事』を愛している」と投稿した。共和党のトランプ前大統領が「不法移民が黒人の仕事を奪った」と主張する中、黒人からは自分たちの職業を限定する差別的な発言だとの批判が出ており、バイルス選手の投稿もトランプ氏への反発だとみられる。
バイルス選手は、金メダルを首にかけた写真に「バイルス選手は史上最高の選手だ。金メダル獲得と体操競技で圧倒することは、彼女にとっての黒人の仕事だ」とのメッセージがついた民主党支持者の投稿を引用して、黒いハートマーク付きで自身のメッセージを投稿した。トランプ氏には言及しなかった。
男子バスケットボールの米国代表で、NBAのレジェンドであるレブロン・ジェームズ選手も、バイルス選手の投稿を引用しながら「史上最高の黒人」と賛意を示した。
バイルズ選手は東京オリンピックで精神的ストレスを理由に競技を棄権したが、今大会では女子団体と個人総合で2冠に輝き、種目別でも有力視されている。【ワシントン秋山信一】
【ワシントン時事】パリ五輪に出場している米体操女子のスター、シモーン・バイルス選手は2日、行事で人種差別的な表現「ブラックジョブ(黒人の仕事)」を用いたトランプ前大統領に対して皮肉を浴びせた。
SNSへの投稿で「私は自分のブラックジョブが好きだ」とつづった。
トランプ氏は7月31日に黒人記者団体の行事に参加した際、急増する不法移民が黒人から雇用を奪っていると訴える中で「ブラックジョブ」と発言。波紋を呼んでいた。11月の大統領選を控え、論争がスポーツ界にも波及した格好だ。
心と向き合った3年 バイルス、周囲に感謝―体操〔五輪〕(2024年8月2日『時事通信』)
体操女子個人総合で金メダルを獲得し、喜ぶ米国のバイルス=1日、パリ(AFP時事)
体操女子個人総合決勝。
女王を追い詰めたレベカ・アンドラデ選手(ブラジル)さえ、うっとりした表情で拍手を送った。それほど、シモーン・バイルス選手(米国)が演じた最後のゆかはすごみがあった。
冒頭の「後方抱え込み2回宙返り3回ひねり」(バイルス2)は驚くほどの高さがあり、どよめきで会場の空気が揺れた。その後も最高峰の跳躍技に成功。直前の平均台を終えて首位にいたバイルス選手の勝利を疑う者は誰一人いなかっただろう。得点と順位が表示され、再び会場が揺れた。
「この3年間、世界の舞台に戻るため闘ってきたことに誇りを感じる」。苦しんだ道のりが詰まった言葉だった。2016年リオデジャネイロ五輪で4冠を成し遂げ、金メダル量産が期待された21年東京五輪は団体総合決勝の1種目目を終えてまさかの棄権。理由はけがではない。空中感覚を失う、イップスのような症状だった。米国は3連覇を逃し、罪悪感にさいなまれた。
そこから2年ほど休養し、専門家による心のケアを受けて昨年復帰した。波瀾(はらん)万丈の競技人生は多くの人の心に響き、今大会はテニス女子で活躍したセリーナ・ウィリアムズさんや開会式に登場した歌手のレディー・ガガさんら世界的スターが観戦。この日はバスケットボール男子のレブロン・ジェームズ選手(レーカーズ)やサッカー元フランス代表のジネディーヌ・ジダンさんが見守った。
競技前の朝7時。バイルス選手は米国のセラピストと連絡を取っていた。「この数日間、私のメンタルを整えてくれた」。復活劇の陰には、今でも周囲の支えがある。
2大会ぶりの金メダルが決まった後、テレビカメラにヤギ形のネックレスを示した。英語でヤギを意味するGOATは、「史上最高」の頭文字を取ったスラング。「自分が史上最高の一人と言われることは信じられない。私はただ、宙返りが大好きなテキサス州出身のシモーン」。バイルス選手だけが言える軽口だった。