大麻取締法改正に関する社説・コラム(2024年12月30日)

少年らによる大麻密売事件で近畿厚生局が押収した大麻リキッドや乾燥大麻。法改正で今後は使用も処罰対象になる=大阪市中央区で2024年12月12日
 
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大麻取締法改正】犯罪抑止へ大きな一歩(2024年12月30日『福島民報』-「論説」)
 
 大麻の使用を罰する麻薬取締法などの改正法が今月、施行された。県内で大麻を巡る犯罪集団の摘発が続く中、大きな後押しとなるに違いない。若年層への薬物汚染の広がりが、新たな非行や犯罪発生への懸念となっている。大麻の不正使用取り締まりの強化を、安全・安心な社会の実現に向けた大きなきっかけとして捉えるべきだ。
 昨年の大麻事犯での摘発人数は全国で6703人と過去最高を記録した。10年前の1813人より4倍近く増えており、約7割を30歳未満が占める。さらに、10年前は80人だった20歳未満が1246人を数え、10年前の15倍と激増している。
 県内では今年11月、郡山市を拠点にした組織的な大麻・密売グループが摘発された。捜査当局によると同グループは交流サイト(SNS)などでつながり離合集散を繰り返す反社会的勢力「匿名・流動型犯罪グループ(通称・トクリュウ)」として大麻に手を染めていたとされる。これまで、関係した男女8人が摘発されている。首都圏で強盗事件を繰り返している犯罪集団と同じような集団だ。摘発は一定の安心につながる。
 大麻取締法はこれまで使用に関する罰則がなかった。背景には日本に「麻」を育てて使い、七味などで実を食す文化が根付いていたことがあるという。一方で、「外国では認められている」などの流言が使用を助長していたとの指摘もある。大麻はアヘンやコカインと同様、国連の条約で麻薬に定義付けられている紛れもない規制薬物だ。
 今回の改正で大麻は「麻薬」として、使用を麻薬取締法で取り締まることになった。なお、従来の大麻取締法は「大麻の栽培の規制に関する法律」と名称を変え、医療分野での利用を可能とした。
 米国の犯罪学者がかつて提唱した「割れ窓理論」のように、窓ガラスの小さなひび割れと同じく、小さな犯罪、ささいな非行を見逃せば、それが大きな災いとなって社会を崩壊させる可能性がある。安易に薬物に手を染めれば、取り返しのつかない事態が待ち受ける。今回の法改正に目を向けることが犯罪から社会を守る一つの契機になるよう願う。新年は善良に暮らす人が平穏に生活できる社会であってほしい。(関根英樹)

大麻にも「使用罪」 罰則にとどまらぬ対策を(2024年12月30日『毎日新聞』-「社説」
 
 大麻を取り締まる法律が強化された。若者らを違法薬物から守る対策を進めたい。
 法改正で、大麻が新たに「麻薬」と位置付けられた。所持や譲渡、輸入などはこれまでも禁じられていたが、今後は使用も処罰対象になる。
 使用罪がなかったのは、許可を得て麻製品用に栽培する農家の人が作業中に成分を吸い込む可能性を考慮していたからだ。近年の研究で吸引はほぼないことが確認され、今回の法改正になった。
 大麻には幻覚作用などを起こす有害成分が含まれ、長期の摂取は精神疾患や生殖機能異常などのリスクを高める。依存性もある。
 だが「体への害が少ない」と誤解している人も少なくない。安易な使用が、薬物乱用の入り口になっていると指摘されてきた。
 昨年の検挙者数は過去最多の6703人に上り、初めて覚醒剤を超えた。摘発された7割超が10~20代で、隠語を使ってネット上で取引するケースが多い。
 海外では合法化した国もある。既に社会に出回っているため、流通を管理することで犯罪組織を排除する狙いがある。
 日本での大麻使用には懲役7年以下の刑罰が科される。使用をためらわせ、市場を広げない効果が期待される。
 ただ、副作用もある。
 犯罪とされることでスティグマ(偏見)が強まると、使用歴のある人が孤立を深める。専門家からは、治療や更生への支援が届きにくくなるとの指摘も出ている。
 つらい現実から逃れるために違法薬物に手を出す人もいる。処罰の強化だけでない対策が、再使用の防止には欠かせない。
 今回の法改正で、医療用大麻については使用が解禁された。海外では鎮静作用のある成分を抽出したてんかん薬が承認されている。
 一方、リラックス効果などをうたって大麻由来の成分を含んだ食品や化粧品も近年増えている。国はメーカーに成分分析を義務付けるなど規制を強化する方針だ。
 成分が似た化合物を使った「大麻グミ」の流通も、昨年問題になった。国はリスクについて一層の情報提供に努めるべきだ。それが違法薬物を社会から遠ざけることにつながる。