あの人に言ってあげたい(2024年7月3日『産経新聞』-「産経抄」)

 
 
首相官邸に入る岸田文雄首相=2日午前(春名中撮影)

サンドイッチの由来は広く知られている。18世紀の英国の貴族、サンドイッチ伯はカード賭博に目がなかった。中断したくないから、パンに薄い牛肉をはさんだ軽食を召し使いに作らせたというのだ。

▼いやサンドイッチ伯に限らず、英国人は昔から、世界に名だたる博打(ばくち)好きである。英国に留学した夏目漱石も「社会全体が一大賭博場の観をなしていた」とあきれたほどだ。

コナン・ドイルアガサ・クリスティら優れた推理小説作家を生んだ風土と関係がありそうだ。例えば競馬では推理を働かせる楽しみがあるからだ(『賭けとイギリス人』小林章夫著)。

賭けとイギリス人 (ちくま新書 30)

▼そんな英国ならではのスキャンダルといえる。大方の政界関係者が秋の総選挙を予想するなか、スナク首相は今年5月、今月4日投開票の日程を発表した。与党・保守党の幹部や候補者がそれを事前に知りながら、選挙日を予想する賭けを行い、多額の利益を得た疑惑が持ち上がった。

▼保守党にとって大きな打撃だが、スキャンダル発覚前から、大敗は必至の情勢だった。保守党政権下で実現したブレグジット欧州連合からの離脱)はかえって経済の低迷を招いている。ジョンソン元首相は、コロナ禍の行動規制下に官邸内でパーティーを開いて国民の怒りを買った。後継首相となったトラス氏が金融市場の大混乱を招き、わずか45日間で辞任に追い込まれたのも痛かった。

▼英国ではもちろん、政治を賭けの対象にすること自体は問題ない。ネットで見つけた米紙ワシントン・ポストの記事が興味深い。記者がロンドンのブックメーカーで、保守党、労働党それぞれに5ポンドずつ賭けてみた。保守党が勝てば255ポンドの大もうけだが、労働党が勝てば5・15ポンドにしかならない。