米兵の少女暴行に関する社説・コラム(2024年6月26・27・28日・7月3日)

沖縄で再び米兵性暴力 人権侵害の放置許されぬ(2024年7月3日『毎日新聞』-「社説」)

米兵による性加害事件を政府から沖縄県に連絡していなかったことが判明し、険しい表情で報道陣の取材に応じる玉城デニー知事=沖縄県庁で6月28日、喜屋武真之介撮影

米兵による性加害事件を政府から沖縄県に連絡していなかったことが判明し、険しい表情で報道陣の取材に応じる玉城デニー知事=沖縄県庁で6月28日、喜屋武真之介撮影

 沖縄県に駐留する米兵による性加害事件が、再び起きた。女性の人権を踏みにじる行為であり、断じて許されない。

 米軍嘉手納基地の空軍兵が昨年12月、16歳未満の少女に性的暴行を加えた疑いがある。今年5月には成人女性が在沖縄海兵隊の隊員に性的暴行を受け、けがをしたとされる。那覇地検は2人を不同意性交等罪などで起訴した。

 連絡が遅れれば、住民への注意喚起や再発防止のための対応に支障が出かねない。玉城デニー知事が「県民に強い不安を与え、女性の人権や尊厳もないがしろにした」と憤るのは当然だ。県議会は抗議決議案の採択を検討している。

性加害事件を起こした空軍兵が所属する米軍嘉手納基地の第18航空団司令官のニコラス・エバンス准将(右から2人目)とマシュー・ドルボ在沖縄米国総領事(左)に抗議文を手渡す沖縄県の池田竹州副知事(右)=沖縄県庁で6月27日、喜屋武真之介撮影
性加害事件を起こした空軍兵が所属する米軍嘉手納基地の第18航空団司令官のニコラス・エバンス准将(右から2人目)とマシュー・ドルボ在沖縄米国総領事(左)に抗議文を手渡す沖縄県の池田竹州副知事(右)=沖縄県庁で6月27日、喜屋武真之介撮影

 在日米軍が関係する事件・事故が起きた際には、米側から日本政府に連絡し、県や関係する市町村に通報する仕組みがある。

 林芳正官房長官は県に伝えなかった理由について、「被害者のプライバシー保護」を理由に事件を公表しなかった捜査当局の判断を踏まえたものだと説明した。

 そうであるならば、外務省と捜査当局の間でどのようなやりとりがあったのか、非公表とした経緯を明らかにすべきだ。

 事件が明るみに出たのは、4月の岸田文雄首相の訪米や6月の沖縄県議選の後、メディアの報道によってだった。

 被害者のプライバシー保護が重要なのは言うまでもないが、県に事件発生すら伝えないのはルール違反だというほかない。

 沖縄では、これまでも米兵らの性加害が続いてきた。1995年に海兵隊員ら3人による少女暴行事件が起き、基地の整理・縮小を求める県民の声が高まった。

 2016年には、うるま市の女性が元海兵隊員で米軍属の男に暴行を受け殺害された。

 県警によると、米軍人や軍属らによる刑法犯の摘発件数は、増加傾向にある。昨年は72件で、過去20年間では最多となった。

 このような悲劇が、繰り返されてはならない。米軍が綱紀粛正を徹底するよう、政府は再発防止を強く要請すべきだ。

 

 沖縄米兵事件 信頼を損ねた情報伝達の遅れ(2024年7月3日『読売新聞』-「社説」) 

 米兵による性暴力事件はなぜ繰り返されてしまうのか。卑劣な犯罪であり、断じて許せない。在日米軍は再発防止策を徹底すべきだ。

 沖縄県内で昨年12月、米軍嘉手納基地所属の空軍兵に少女が誘拐され、暴行を受けた。那覇地検は今年3月、わいせつ誘拐と不同意性交の罪で空軍兵を起訴した。

 また今年5月には、沖縄北部にある米軍キャンプ・シュワブ海兵隊員が成人女性を暴行し、けがを負わせた。県警は海兵隊員を緊急逮捕し、那覇地検は先月、不同意性交致傷の罪で起訴した。

 被害者の恐怖や絶望感は計り知れない。沖縄の多くの市町村議会は、米政府に被害者への補償を求める決議を採択した。嘉手納基地周辺では、抗議デモも起きている。県民が憤るのは無理もない。

 沖縄で1995年、小学生女児が米兵3人に暴行された事件は日本中に大きな衝撃を与え、米軍基地再編のきっかけとなった。

 だが、その後も米軍人・軍属による性犯罪は後を絶たない。

 性暴力事件が起きる度に、在日米軍は軍人らの外出を一定期間制限したり、研修を強化したりといった対策を講じてきたが、効果が上がっているとは言い難い。

 米政府は米軍の規律を正さねばならない。実効性のある犯罪抑止策を早急に講じ、国や県に丁寧に説明する責任がある。

 在沖縄米軍は、日本だけでなく、インド太平洋地域の安全を確保する重要な役割を担っている。

 県民の反基地感情が高まれば、安定的な駐留が損なわれかねない。日本の安全保障にとっても深刻であり、日米両政府は県との信頼回復に力を注ぐ必要がある。

 今回の二つの事件を巡り、沖縄側は、県への情報提供が遅すぎたと政府を批判している。

 外務省は、空軍兵が起訴された3月、エマニュエル駐日米大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れたが、県には事件を伝えなかった。捜査に支障をきたしかねず、被害者のプライバシーを侵害する恐れもあったためだという。

 被害者保護を名目に公表を遅らせる意図があったのではないか、との疑いを抱かせる。少なくとも起訴後には公表すべきだった。

 空軍兵を起訴した3月に県が事態を把握し、県から県民に注意を呼びかけていれば、5月の事件は防げた可能性もある。

 政府は、沖縄に偏っている米軍基地負担の軽減を急がねばならない。それが、県民の不安を和らげることにつながるだろう。

 
米兵の少女暴行 沖縄の怒りを受け止めよ(2024年6月28日『新潟日報』-「社説」)
 
 いつまで繰り返されるのか。またしても起こった米兵による犯罪に強い憤りを覚える。沖縄県民の怒りと不安は大きい。米軍施設が集中する現状の改善が急務だ。
 事件を約3カ月間も県に連絡しなかった外務省の対応も理解できない。政府への県民の信頼が大きく損なわれるのも仕方ない。
 在沖縄米空軍兵の男が昨年12月、沖縄県読谷村の公園で16歳未満の少女を車で誘拐、自宅に連れ込み同意なくわいせつな行為をしたとして、那覇地検が今年3月、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で起訴していたと分かった。
 玉城デニー知事が「女性の尊厳を踏みにじるものだ」と述べたように断じて許すことはできない。
 沖縄では、米軍関係者の凶悪事件や性犯罪が頻発している。
 1995年に小学生女児が米兵3人に暴行された。日本側は米兵らの逮捕状を取ったが、日米地位協定により身柄を拘束できず、県民の怒りが爆発した。
 凶悪事件では起訴前の身柄引き渡しに、米側が「好意的考慮を払う」と運用が見直されたものの、決定権は今も米側にある。
 その後も、2016年に米軍属がウオーキング中の女性を性的暴行の目的で襲い殺害した。21年には海兵隊員が女性に無理やり性交しようとしけがを負わせたなど、被害は後を絶たない。
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する団体の代表が「事件が起き続けるのは基地があるからだ」と語る言葉は重い。
 沖縄には今なお在日米軍専用施設の約7割が集中している。
 在日米軍再編に伴い、在沖縄米海兵隊の米領グアムへの移転が12月に始まり、順調に進めば1万9千人近くの隊員は、28年の移転完了までに約1万人に減少する。
 とはいえ、駐留米軍の縮小を求める沖縄県民の声が原動力となり、沖縄の負担軽減として日米両政府が合意したのは06年で、グアム移転の実現はあまりにも遅い。
 沖縄をはじめ米軍基地を抱える自治体から、日本側の捜査を制限する日米地位協定の改定を求める声が根強いのも当然だろう。
 信じ難いのは、起訴を受け外務省が3月末に駐日米大使に抗議しながら、県が今月25日に問い合わせるまで、外務省から県への連絡がなかったことだ。
 地元から「隠ぺい」と非難されるのも当然だ。
 外務省は、被害者のプライバシーに配慮したことなどを、連絡しなかった理由に挙げた。
 県が反対する中、国が代執行し辺野古移設工事が進められている。今月16日投開票だった沖縄県議選への影響を避けようとして知らせなかったのなら、県民の国に対する反発がさらに強まる。
 事件の再発防止の観点からも大きな問題がある。政府は猛省せねばならない。
 

米兵事件に広がる抗議 基地あるが故いつまで(2024年6月28日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 米軍嘉手納基地所属の兵長による少女誘拐暴行事件に対し、県民の怒りと抗議の動きが広がっている。
 
 「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」や「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」など県内6団体の代表らは27日、県庁で会見し、日米両政府や米軍に抗議するとともに、被害者に対する謝罪や心のケアを求めた。
 出席者は「少女の恐怖と絶望を思うと心がえぐられる」と語り、日米両政府を「県民の命と暮らしが脅かされている現状を放置している」と非難した。さらに県内全ての米軍基地を撤去し、新たな基地を造らせないことに言及した。
 市町村議会では、抗議決議の動きも広がっている。
 浦添市議会は26日、「蛮行に激しい怒りと憤りを覚える」として、再発防止策や日米地位協定の抜本的見直しを求める抗議決議を採択した。
 27日には那覇や中城、北中城の議会が続いたほか、県議会でも与党を中心に決議の動きが出ている。
 名護市では、市民らが「少女の尊厳を踏みにじるな」「米軍よ沖縄から去れ」などと書かれたプラカードを手に持ち抗議のスタンディング。参加した女性は「全国に沖縄の状況を知ってほしい」と訴えた。
 米兵による性暴力が後を絶たず、女性や子どもたちの安全や人権が脅かされるという沖縄の現状は、異常というほかない。
■    ■
 県民の憤りは当然だ。
 沖縄戦で米軍が上陸してからこれまで、約80年にもわたり米軍による性暴力は続いている。
 「行動する女たちの会」が1996年からまとめている米兵による女性への性犯罪記録年表には、45年の沖縄戦時から2021年にかけて、沖縄の女性約950人が受けた暴力の数々が連綿とつづられている。
 だがそれとて表に出てきた数であり、氷山の一角でしかない。
 日米両政府は事件事故が起きるたびに「綱紀粛正」と「再発防止」を誓ってきた。しかし犯罪はなくならない。
 軍隊とは力による鎮圧や支配を前提とした組織だ。日々の訓練だけでなく、紛争地で凄絶(せいぜつ)な暴力に直面すれば緊張は増し心身は疲弊する。
 米軍関係者は地位協定によって、さまざまな面で保護され優遇されている。そのことが占領者意識へとつながり、再発防止を妨げているとも指摘されている。
■    ■
 事件を受け、池田竹州副知事は嘉手納基地第18航空団のニコラス・エバンス司令官、マシュー・ドルボ在沖米総領事に抗議し、再発防止と被害者への謝罪や補償などを求めた。司令官は「心配をかけていることは遺憾」と述べたものの謝罪の言葉はなかった。
 米軍は昨年12月の事件発生後、何か対策を講じたのか。3月の米兵起訴後、県に連絡がなかったのも納得いかない。
 
 市民団体が米軍基地の撤去を求めたのは、基地あるが故に繰り返される犯罪だからだ。沖縄の過重な基地負担と不平等な地位協定がその元凶である。

米兵による少女連れ去り及び性的暴行事件に対する抗議決議

昨年 12 月 24 日、嘉手納基地所属の米空軍兵長沖縄本島中部の公園で 16 歳未満の少女を連れ去り、同意なく性的暴行を加えたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で、3月27日付で起訴されていたことが報道によりわかった。この米兵による蛮行に激しい怒りと憤りを覚えるとともに改めて県民に強い衝撃と不安を与えている。又も発生してしまった凶悪な事件に、米軍の再発防止策の弱さを指摘し、抜本的な改善策を求めるものである。

よって本市議会は、今回の事件に対し満身の怒りを込めて抗議するとともに、事件・事故の実効性ある再発防止に向けて下記のとおり強く要求する。

1.事件の全容を解明するとともに速やかに公表し、誠意ある対応を行うこと。

2.市民・県民が安心して生活することができるよう、実効性ある再発防止策を講じること。

3.日米地位協定の抜本的な見直しを図ること。

以上、決議する。

令和6年(2024年)6月26日

沖縄県浦添市議会

宛先

米国大統領、米国国防長官、米国国務長官、駐日米国大使、在日米軍司令官、在日米軍沖縄地域調整官、在沖米海兵隊太平洋基地司令官、在沖米国総領事、外務大臣、外務省特命全権大使(沖縄担当)、沖縄県警察本部長


米兵少女暴行事件 人権軽視、主権が問われる(2024年6月27日『琉球新報』-「社説」)
 
 事件から約半年後、那覇地検による起訴から約3カ月後に明らかになった米軍嘉手納基地所属の空軍兵による少女暴行事件は、米軍基地から派生する事件・事故に絡む問題を浮き彫りにした。
 事件の究明と再発防止を図る上で必要な容疑者の身柄引き渡し、事件・事故の通報体制に関する取り決めがないがしろにされた。事件・事故抑止に関する協議機関も機能していない。県民の人権が軽んじられ、日本の主権の内実も問われる事態だ。
 事件発生は昨年12月末で、空軍兵は本島中部の公園で少女に声をかけて自宅で犯行に及んだ。110番通報で事件を認知した県警は米軍の管理下にある空軍兵を任意で調べた。起訴後に身柄は日本側に移ったが、現在は保釈されている。
 1995年の日米合同委員会合意では米側は「殺人または強姦(ごうかん)という凶悪な犯罪」の場合、起訴前でも日本側の身柄引き渡し要求に「好意的配慮を払う」とされている。今回、県警は身柄引き渡しを米側に求めていないが、16歳未満の少女を被害者とする事件は、身柄引き渡し要求の要件にある「凶悪な犯罪」に相当するのではないか。検証を求めたい。
 那覇地検が空軍兵を起訴したのは3月27日であり、同日、外務省は駐日米大使に抗議した。その後も政府から県への連絡はなく、7月12日の初公判期日が確定するまで事件の存在は公にならなかった。報道によって事件を知った玉城デニー知事が連絡がなかったことについて「著しく不信を招くものでしかない」と批判するのも当然だ。
 日米合同委員会は97年、在日米軍の事件・事故の日本側への通報体制改善について合意した。この中で(1)米軍機や米艦船の事故(2)危険物や有害物の誤使用・流出(3)日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件―などについて速やかに米側から日本側関係当局、地元社会に通報する義務を確認している。
 少女を被害者とした性犯罪事件のため通報に慎重を期す必要はある。しかし、起訴から3カ月も事件の事実が伏せられたのは異常だ。日米合同委員会の合意事項に反しているのではないか。政府は明確に説明すべきである。
 米軍の事件・事故に対処する地元協議機関も機能不全に陥っている。
 1979年に米軍、那覇防衛施設局、県による三者連絡協議会が発足したが2003年5月の開催を最後に自然消滅した。00年に始動した「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」も休眠状態にある。事件・事故に対処する地元協議機関はないに等しい。
 米軍人・軍属による事件・事故が起きるたびに原因究明と再発防止、綱紀粛正が叫ばれてきた。しかし、このような現状では事件・事故の抑止はおぼつかない。
 

米兵が不同意性交 やまぬ性暴力、米軍撤退を(2024年6月26日『琉球新報』-「社説」)
 
 許しがたい事件が起きてしまった。米軍基地あるがゆえの非道がまたも繰り返されたのだ。県民は基地から派生する人権侵害にいつまで耐え続けなければならないのか。
 昨年12月、県内に住む16歳未満の少女を車で誘拐し、自宅で同意なくわいせつな行為をしたとして、那覇地検がわいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で米空軍兵長の男を起訴した。起訴の日付は3月27日である。
 今月23日に糸満市摩文仁で開かれた沖縄全戦没者追悼式における平和宣言で玉城デニー知事が「広大な米軍基地の存在、米軍人等による事件・事故、米軍基地から派生する環境問題など過重な基地負担が、今なお、この沖縄では続いています」と述べたばかりだ。それからわずか2日後、県民は過酷な現実を突き付けられた。
 私たちは少女の尊厳を傷つけた米兵に強く抗議する。日米両政府は被害者の心的ケアを含め、全面的に補償すべきだ。そして、県民の人権を踏みにじる事件を抑止できない限り、全ての米軍は沖縄から去らなければならない。
 ふに落ちないことがある。25日の記者会見で林芳正官房長官は、3月27日の起訴を受けて岡野正敬外務事務次官からエマニュエル駐日米大使に遺憾の意を申し入れたことを明らかにした。少なくとも政府はその日までに事件を把握しているのだ。県は報道によって事件を知ったのである。
 このような重大事件がただちに県に通報されなかったのはなぜか、政府の関係機関は説明すべきだ。今月は県議選があった。何らかの政治的意図から県へ連絡しなかったのであれば言語道断だ。
 県民は米軍の蛮行に長年傷つけられてきた。米兵の性暴力は米軍が上陸した1945年から始まった。米軍が設置した民間人収容所などで女性を被害者とした事件が多発したのである。
 女性の性被害は72年の施政権返還後も変わることがなかった。戦後一貫して米軍の性暴力は続いてきた。これ以上、米軍駐留による人権侵害を許すわけにはいかない。
 全戦没者追悼式に出席した上川陽子外相は21日の会見で「沖縄の皆さまには大きな基地負担を担っていただいている。沖縄の基地負担軽減は政権にとって最重要課題だ。引き続き取り組んでいきたい」と述べている。
 外務省はこの発言を単なる口約束に終わらせてはならない。厳重に抗議し、再発防止策の確立を求めるべきだ。犯罪抑止に向けた兵員教育の徹底などやるべきことは多い。
 手始めに米兵らの外出・基地外飲酒を制限する勤務時間外行動指針(リバティー制度)の強化が必要だ。2022年12月にリバティー制度を緩和して以降、米軍事件が多発傾向にあった。
 当然、主権国家として日米地位協定の抜本改正にも取り組まなければならない。