新紙幣が7月3日、20年ぶりに発行される。本格的なキャッシュレス時代が到来する中で、現金の価値を再確認する契機としていきたい。
流通量の多い1万円札の肖像は、福沢諭吉から、「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一に変わる。5千円札は、樋口一葉から女子高等教育の先駆者である津田梅子、千円札は、野口英世から細菌学者の北里柴三郎になる。
国民になじみのある肖像で、親しみを持って使われるだろう。
日本は先進的な偽造防止策を取り入れ、20年を目安に刷新してきた。今回は、見る角度を変えると肖像が回転するように見える「3Dホログラム」の技術を世界で初めて採用した。職人技を生かし、高精細な「すかし」も入れた。
2004年に偽造紙幣は年2万枚以上も見つかったが、近年は年1000枚を切っている。高度な偽造防止策により、現金への安心感が高まると期待される。
紙幣を取り巻く環境は、この20年で大きく変わった。
だが、スマホに不慣れな高齢者でも使いやすく、大規模停電など災害の際にも使える点で、紙幣への信頼感はなお高い。
政府・日本銀行は、「デジタル通貨」の導入を慎重に検討しているが、仮に将来、それを発行するようになった場合でも、現金と共存させるという。
経済的な弱者を含め、すべての人が安心して決済できることが大切だ。こうした「金融包摂」の観点からも、デジタルと現金が共存する決済が望ましい。
新紙幣の発行を前に、はやくも「旧紙幣は使えなくなる」といった偽情報がSNSで拡散し、新たな詐欺が懸念されている。
「タンス預金」を抱え、新札と交換しようとする人が増えると見込まれる。「新紙幣と交換する」と偽って、振り込みでだまし取ろうとする犯罪には、警察などが警戒を強めてもらいたい。
新紙幣への対応も急がれる。大手銀行は、既に現金自動預け払い機(ATM)の改修を終えた。
一方、飲料の自動販売機は2~3割、飲食店などの券売機は、5割程度しか、新紙幣の発行に間に合わないと推計される。政府や事業者は、混乱を招かないよう対応状況の周知に努めてほしい。