元検事正「逮捕」 隠蔽と見られて仕方ない(2024年6月28日『産経新聞』-「主張」)

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準強制性交の疑いで大阪高検に逮捕された元大阪地検検事正の弁護士、北川健太郎容疑者
 大阪高検が準強制性交の容疑で、元大阪地検検事正で弁護士の北川健太郎容疑者を逮捕した。大阪地検トップを務めた法曹重鎮が性犯罪で逮捕されるなど前例がないが、より異様なのは検察の情報開示への態度だ。
 地検を舞台にした事件のため、上級庁の高検が捜査を担い、逮捕に踏み切ったとみられる。その大阪高検はオープンな記者会見を開かず、報道各社の取材に個別に対応した。ただその中で発表したのは逮捕の事実のみで、「いつ」「どこで」「誰に」「何を」など容疑事実の内容は公表を拒んだ。
 検察のこの説明姿勢を、「不祥事の事実上の隠蔽(いんぺい)ではないか」と批判する声が強い。
 高検は「被害者のプライバシーを考慮し、特定につながる事項の公表は一切差し控える」と非公表の理由を説明するが、理解は得られるだろうか。
 身柄を拘束し、社会から隔離する「逮捕」という手段は、強大な公権力の行使である。その行使には厳密・中立な手続きに加え、可能な限りの理由開示が求められる。逮捕の適正性を担保し、独善に基づく不当逮捕を防止するためである。
 被害者のプライバシー保護は重い。だからといって、一切合切を非公表とするのはおかしい。検察は被害者のプライバシーに配慮しつつ、できるだけ具体的な容疑事実を公表する努力をしなければいけないのだ。
 本紙の取材で、容疑事実の時期は検事正時代(平成30年2月~令和元年11月)だったことが判明した。5年も前である。なぜ、今の時期の逮捕となったのか。検事正時代に問題は把握されなかったのか。時期一つとってもこれだけ疑問が生じるのだ。説明不足では、捜査の経緯や適正性にも疑問符がつく。
 検察の頑(かたく)なな非公表は「被害者のプライバシー保護を隠れ蓑(みの)に、組織の不都合な事実を隠そうとしているのでは」との不信を呼ぶ。そのことを検察は理解できないのだろうか。
 起訴の権限を有する唯一の国家機関である検察には、厳正公平と透明性が強く求められる。一方で独善に陥りやすく、たびたび問題を起こしてきた。
 容疑事実の非公表は、外部からの検証を不可能にする。自由社会の考え方とは相容(あいい)れない独善的行為だ。そのことの重大さを、検察は分からないのか。