JAXAから情報流出 サイバー防衛の甘さ露呈(2024年6月25日『毎日新聞』-「社説」)

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サイバー防御の重要性が高まる宇宙分野。写真は、今年2月に打ち上げられたH3ロケット2号機=本社ヘリから
 
 深刻な事態である。宇宙航空研究開発機構JAXA)に複数回のサイバー攻撃があり、内部情報が外部に流出した。
 JAXAは警察からの連絡を受け、状況を把握した。被害の詳細を明らかにしていないが、大量の文書ファイルが不正に閲覧されていた。外部の研究機関や企業、防衛省などの情報が漏えいした恐れもある。
 中国系ハッカーの攻撃とみられている。昨年6月、インターネット経由で外部から内部ネットワークに接続する際に使う「仮想専用線VPN)」の脆弱(ぜいじゃく)な部分から侵入されたらしい。今年に入っても攻撃は続いているという。
 JAXAは攻撃を受けたネットワークを遮断し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)などとともに被害の実態を調査している。
 政府は、不正アクセスがあったネットワークではロケットや人工衛星の運用など機微な情報を扱っていないことから、「特段の支障はない」と説明している。
 とはいえ、宇宙開発がかかわる分野は科学研究や災害時の状況把握、測位などにとどまらず、安全保障にまで拡大している。JAXAが所有する情報の重要性は増し、標的の対象になりやすくなっているとみられる。
 このような問題が起きれば、国内外の研究機関や協力先企業からの信頼を失い、今後の業務に支障が生じかねない。システムの更新状況やデータの監視体制を絶えず点検していくことが不可欠だ。
 そもそも日本のサイバーセキュリティーを巡っては、対応の遅れが指摘されてきた。これまでも公的機関や企業、病院などが攻撃を受け、情報が流出したり機能が停止したりしている。
 政府は現在、先手を打って被害を防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向け、秋の臨時国会に関連法案を提出する準備を進めている。何よりも重要なのは、各組織の責任者が問題意識を高め、専門人材を育成することだろう。
 デジタル化が進んだ現代では、サイバー攻撃によって経済活動や市民生活が多大な被害を受けるリスクが高まっている。社会全体が強い危機感を持ち、備えを進めていかなければならない。