電気ガス代補助に関する社説・コラム(2024年6月25日)

気ガス代補助 説得力を欠いた唐突な再開だ(2024年6月25日『読売新聞』-「社説」)
 
 またもや唐突な物価高対策である。政策の効果を丁寧に検証しないままで、次々に施策を打ち出しても国民から理解を得るのは難しい。
 岸田首相は、緊急の物価高対策として、電気・ガス料金の補助制度を8月から10月まで復活させると表明した。数千億円の国費が必要になるとみられる。
 物価高に賃上げが追いつかず、地方経済や低所得者層が打撃を受けているため、即効性のある対策を講じるというのが理由だ。
 電気・ガス代の補助制度は、ロシアによるウクライナ侵略でエネルギー価格が高騰したことを受け、2023年1月から始まり、価格が落ち着いたとして、今年5月に打ち切っていた。
 これまでに4兆円近くの予算が計上されたが、脱炭素に資する省エネ意欲を低下させ、市場をゆがめる弊害も指摘されていた。
 それを8月から突然、再開するという。課題が多い制度を再開するというなら、その利点と弊害をきちんと点検するべきである。
 現状で国際的なエネルギー価格に大きな変動はないとされる。また、補助制度を所管する経済産業省や予算を工面する財務省と事前に調整を図った形跡は見当たらず、首相の方針転換には、戸惑いの声が上がっているという。
 これでは、政権の支持率回復や、9月の自民党総裁選での再選に向けた人気取り政策と受け止められても仕方がない。
 首相は昨年10月にも、定額減税を突如、打ち出した。今年6月から実施に移されているが、内閣の支持率は低迷したままだ。効果が明確でない上、後代の財政負担が増えるだけであることを国民が見抜いているからだろう。
 首相は、秋に策定する経済対策に年金世帯や低所得者層向けの新たな給付金を盛り込むという。安易なバラマキは慎んでほしい。
 首相の政治手法は、政府内や党内でしっかり議論し、国民の納得を得る過程が欠けている。多くの有権者は、突然の決断を首相の指導力と見なしていないのは明らかだ。首相はサプライズ頼みの政治から脱却せねばならない。
 物価高の大きな要因は、輸入物価の上昇につながる円安・ドル高にある。補助金や給付金といった対症療法を繰り返すばかりでは、根本的な解決策にはならない。
 日本企業が海外で稼いだ利益を国内投資に呼び戻す施策や、日本銀行が、今後の金融政策の情報発信に工夫をこらすなど、円安是正策にも知恵を絞る必要がある。
 

電気・ガス代補助 必要な層に絞った支援を(2024年6月25日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
今国会の閉幕を受け記者会見を行う岸田文雄首相=21日午後、首相官邸(春名中撮影)
 岸田文雄首相が21日の会見で物価高対策として電気・ガス料金の負担軽減策を8月使用分から3カ月間、復活させると表明した。
 電気・ガス料金の補助は5月使用分をもって終了している。これに伴い、大手電力の7月請求分(6月使用分)の電気料金は、10社のうち8社が過去最高となる見通しだ。首相は再開の理由について「暑い夏を乗り切るための緊急支援だ」と述べた。
 先の終了では、液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格がロシアのウクライナ侵略前と同程度に低下したことを理由にしていたはずだ。LNG、石炭とも輸入価格は当時より下がっており、唐突な補助の再開は政策の一貫性を欠く。支持率が低迷する政権浮揚のアピール材料にしたいとの思惑があるとみられても仕方あるまい。
 日銀がマイナス金利政策を解除し、国債に頼る財政は厳しさを増す。物価高対策が必要なのであれば、一律補助ではなく低所得者や中小企業など真に支援を必要とする層に対象を絞る仕組みを導入すべきだ。
 国民の誰もが使うエネルギーに対する支援策は、これまでも延長が繰り返されてきた。
電気・ガス料金の補助は令和5年1月の使用分から適用された。同年9月使用分で終了する予定だったが、補助を縮小して延長された。
 ガソリンや灯油など燃油価格を抑制するための補助金は4年1月に導入された後、これまで7度にわたり延長されている。首相は今回、燃油補助金について年内と期限を区切ったが、両補助金を合わせると、予算額はすでに10兆円を超えている。
 政府は今月から1人当たり計4万円の定額減税も実施している。エネルギー補助金を含め、財政出動による物価高対策はいつまでも続けられないと認識すべきだ。
 首相は今回、原発再稼働が進んでいる地域とそうでない地域とでは電気料金に大きな格差があると指摘した。そのうえで安全が確認された原発を再稼働させる意向を改めて示した。
 再稼働を進めるには首相の強力なリーダーシップが欠かせない。再稼働の地元了解を得るために、避難路整備など地元の要望に政府を挙げて取り組む必要がある。首相は言葉だけでなく行動で示してもらいたい。