熱海土石流3年 盛り土不正の根を絶て(2024年7月3日『東京新聞』-「社説」)

 

 28人が犠牲となった静岡県熱海市の土石流災害から3日で3年=写真。被災者の生活再建や復興は道半ばだが、原因となった危険な盛り土の造成を防ぐ規制法ができ、6月からは建設残土の最終搬出先の確認が工事の元請け業者に義務付けられた。盛り土に関する不正を根本から絶つため、規制の実効性を高めねばならない。

 熱海市によると、昨年9月に立ち入り禁止が解除された旧警戒区域内に帰還した被災者は6月20日現在、22世帯47人。昨年4月時点の避難者の2割で、半数以上は別の場所で生活を再建した。32世帯63人は今も避難が続く。道路整備や川の拡幅工事が遅れ、帰還に踏み切れない被災者もいる。行政の息の長い支援が求められる。
 再発防止の仕組み作りは進みつつある。土石流は建設残土でずさんに造成された盛り土が、大雨で崩落して発生。盛り土は土地の用途や地域で規制に差がある隙を縫って造成されており、国は、造成や安全性を全国一律で規制する法律を昨年5月に施行した。
 だが国土交通省によると、1日までに規制に必要な区域指定をしたのは都道府県と政令市、中核市計129自治体のうち大阪府など15自治体にとどまる。規制前に造成を急ぐ「駆け込み」を防ぐためにも指定を急ぐべきだ。もっとも指定した自治体の多くが全域を対象とし、隙間なく対応する姿勢が見てとれる。条例で許可が必要な規模を引き下げた自治体もある。
 対策のもう一つの柱が、残土の搬出先を追跡する仕組みだ。土を出した工事の元請け業者に、最終処分先が法などに基づく許可が得られている場所か、さらには、実際にそこに搬出されたか、という事前と事後の確認を義務付けた。
 ただ、違反の罰金は50万円以下で、不適切処理の抑止には力不足だ。従来は、元請けが、安価で請け負い、十分な対策をしない業者に依頼するケースが多く、問題に詳しい桜美林大の藤倉まなみ教授は、違法な盛り土が造成された場合は、原状復帰の責任を元請けにも負わせるべきだと指摘する。多大な犠牲の上に生まれた仕組みを画餅にしてはならない。