東京電力に意見できる「大株主」東京都…原発再稼働はスルー 福島からの避難者「その電気、本当に必要か議論を」(2024年7月3日『東京新聞』)

 
<7.7東京都知事選・現場から>
東電の株主総会に向かう人たちに柏崎刈羽原発再稼働の反対を訴えるビラが配られていた=6月26日、東京都江東区で(荒井六貴撮影)

東電の株主総会に向かう人たちに柏崎刈羽原発再稼働の反対を訴えるビラが配られていた=6月26日、東京都江東区で(荒井六貴撮影)

 東京都知事選の告示から6日後の6月26日午前、東京都江東区内のイベントホールで開かれた東京電力ホールディングスの株主総会に、株主たちが続々と向かっていく。

◆株価を左右する柏崎刈羽原発に関心高く

 同社の株価は昨年6月に500円前後だったのが、今年は一時1000円を超え、26日の終値で868円と右肩上がりだ。今年4月に原子炉内に核燃料の装塡(そうてん)を終えた柏崎刈羽原発7号機(新潟県)が再稼働すれば、収支が改善するとの期待が要因の一つとみられている。
 多摩地区在住の株主の男性(60)は「東京電力の経営もよくなるし、再稼働してほしい」と話す。総会では、再稼働賛成と反対の株主が経営陣に質問をぶつけ、それぞれ拍手が起きていた。

 東京電力柏崎刈羽原発 1〜7号機まであり、すべて停止中。新潟県柏崎市(1〜4号機)と刈羽村(5〜7号機)に立地し、電力は群馬県中之条町の送電施設などを経て首都圏に送られる。営業運転は1号機が1985年に始まった。東京電力は6、7号機の再稼働を目指し、新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査に申請。規制委は2017年に適合と判断した。再稼働に向けた主な手続きは、県の同意だけを残す。花角英世知事は避難計画に不安があるなどとして判断していない。

◆都4度の株主提案…実は原発の是非には触れず

 総会には、大株主である都の担当者も出席していた。同社の筆頭株主は、過半数保有する原子力損害賠償・廃炉等支援機構で、約1.2%を保有する都は5番目に多い。
 都は株主提案で、電力の価格高騰の抑制や安定供給の確保、再生可能エネルギーの導入拡大に努めることを定款に盛り込むよう求めたが、否決された。
 提案は、原発再稼働の是非にも関わるようにも見える。しかし都によると、2011年の福島原発事故後、今回を含め計4度の株主提案で原発に触れたことはない。都産業・エネルギー政策部の担当者は「原発についてはスタンスを示していない。稼働は地元の同意を得て、国が判断すること」と距離を取る。

◆「最大の電力消費地」なのに都知事選で論戦は?

 柏崎刈羽原発が再稼働すれば、電力は首都圏に送られる。都は最大の電力消費地で恩恵を受ける。一方で、福島のようにひとたび深刻な事故が起きれば、多くの人の生命や財産、故郷を奪うことになる。人ごとではいられないはずだ。
 都知事選主要候補者6人への本紙アンケートで、再稼働に3人が前向き、2人が慎重、1人は態度を明確にしなかった。選挙戦で言及は少なく、大きな争点にはなっていない。
 議論にならない現状に、再稼働に同意するかどうかの判断を迫られている新潟県の花角英世知事はこれまでの会見で「どうしても知事選はその土地、その地域の行政課題が中心になる」「深刻なことが起きているとか、困っていることを伝える努力を続けるしかない」と話した。

◆新技術や再生エネルギー「東京はモデルになって」

 福島県南相馬市から東京都武蔵野市に避難した元原発作業員の男性(69)は東日本大震災の時、福島第1原発4号機で設備のメンテナンスに当たっていた。「間一髪で津波から逃げられた。日本は地震大国で、原発の地元に常に危険を背負わせている」と説く。
 今は住民票を武蔵野市に移し、都知事選の選挙権を持つ。「蓄電などの新しい技術を開発し、再エネを利用したほうがいい。東京は影響力があり、モデルケースにもなれる。本当に原発の電気は必要なのか。候補者にはちゃんと議論してほしい」(荒井六貴)