今の国会には、政治に対する国民の信頼を取り戻す意思も能力もない。21日に事実上閉幕した通常国会は、国権の最高機関の救いがたい現実を映しだした。
国会が役割を果たせない責任の大半は事件の当事者で政権与党である自民党にあるが、国民の怒りを直視しているかは疑わしい。
裏金づくりはいつ誰が始めたのか、違法行為がなぜ長年続いたのか、裏金が何に使われたのか。事件の核心は解明されなかった。
岸田文雄首相は改正案が廃案になれば退陣に追い込まれると危惧し、公明党や日本維新の会の主張を一部取り入れて修正を重ねた。21日の党会合では「自民党を守るために決断した」と政権の延命が目的だったことを吐露した。
こんな経緯で成立した改正法に実効性があるはずはない。企業・団体献金や政策活動費の禁止などの抜本改革は手付かずで、新たに導入する規制も具体策は先送りされた。不正の再発防止どころか何も変えないと開き直るに等しい。
◆カネを「かける」政治
自民党の居直りを象徴するのは19日の党首討論だった。首相=写真(右)=は立憲民主党の泉健太代表=同(左)=に「政治にはコストがかかる」と言い放った。首相が2022年に集めた資金はパーティー収入を中心に約2億円に上る。
政治にカネがかかるのでなく、自民党が政治にカネをかけているのだ。主な使途は秘書給与で、選挙区に秘書を多数配置した方が優位になる構図が見えてくる。
多くの秘書を雇うために政治資金パーティーで企業・団体から資金を集めれば、政策決定は資金を多く拠出した企業・団体に有利な方向に傾く。こうした金権政治が企業の公共事業への依存を強め、日本経済の長期低迷の一因になってきたのではないか。
首相は「おカネがない若者でも政治を志せる現実的な資金のありよう」を探ったというが、聞いて呆(あき)れる。資金力で地盤を築き、政治資金も含めて世襲するなら、新たな人材の政治参加を阻んでいるというほかない。泉氏が「ふざけるな」と憤ったのは当然だ。
もとより国会が「政治とカネ」に終始することは望ましくない。通常国会では政府が新たに提出した62法案のうち61法案が成立し、条約11本はすべて承認された。
改正子ども・子育て支援法には国民負担増が盛り込まれ、改正地方自治法は地方分権に逆行しかねない内容だ。改正入管難民法、重要経済安保情報保護法は人権侵害につながる懸念がある。次期戦闘機の日英伊3カ国共同開発に向けた条約は憲法の平和主義に反しないか、疑問が残る。
国民生活や国の在り方に関わる課題は徹底審議が必要だが、裏金の追及に時間が割かれ、審議が不十分だったなら深刻な事態だ。
政治への信頼はあらゆる政策遂行の前提であり、政治改革は中途半端で終わらせるべきでない。
自民党内では今後、9月の総裁選に向けた動きが加速する。次の衆院選や来年夏の参院選をにらんで党の「顔」を代え、裏金事件の幕引きを図るなら国民に見透かされるだけだ。金権体質を改めなければ信頼回復は難しい。
◆腐敗への怒り忘れず
野党第1党の立憲民主党も9月に代表選を行う。政治資金パーティーを禁じる法案を国会に提出しながら、党幹部がパーティー開催を計画していたことは猛省すべきである。「カネをかけない政治」の具体像を国民に示し、政権交代を目指す覚悟を示してほしい。
衆院選は来年10月の議員任期満了までに必ず行われる。