政治資金規正法の審議に関する社説・コラム(2024年5月23日)

規正法改正案審議入り 修正協議で実効性高めよ(2024年5月23日『河北新報』-「社説」)
 
 実態解明も関係者の処分も手ぬるい上に再発防止を期すはずの改正案は生煮えで、与党内の合意さえ得られぬまま異例の単独提出となった。
 自民党は、この間の対応に国民が厳しい目を向けていることを強く自覚すべきだ。
 国会会期末は1カ月後に迫る。政治資金の徹底した透明化を求める世論を正面から受け止めるなら、速やかに修正協議に応じ、実効性の高い法改正を目指さなくてはならないはずだ。
 自民派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、各党が提出している政治資金規正法改正案がきのう、衆院政治改革特別委員会で審議入りした。自民案は抜本改革には程遠い内容だとして、野党のみならず公明からも批判が噴出している。
 焦点の一つとなっている政治資金パーティーについて、自民が示したのはパーティー券購入者名の公開基準を現行の「20万円超」から「10万円超」に引き下げる案だ。
 寄付の基準と同じ「5万円超」を主張する公明との溝が埋まらず、与党案のとりまとめを断念する要因となった。
 岸田文雄首相は「明確な基準として10万円超という額が適当である」と語っているがなぜ適当なのか、筋の通った説明はない。
 券購入は表向きパーティー参加の対価で寄付とは異なるとはいえ、議員らが売りさばく券の枚数は実際の参加者数を上回るケースがほとんど。特に自民派閥のパーティーは利益率が8~9割に上り、事実上、寄付と大差はない。
 政治との関係を公にしたくない企業・団体が券の購入をためらい、資金源が細ることを懸念しているのだろうが、既得権益にしがみついている限り、政治資金の透明化は一向に進まない。
 野党では立憲民主、日本維新の会、共産などが企業・団体献金の禁止を主張。パーティーについては全面禁止か、企業・団体による券の購入禁止かなどを巡って隔たりはあっても、自民案とは比較にならぬほど踏み込んだ内容だ。
 公明を含む各党が禁止や使途の公開で足並みをそろえる政策活動費の見直しでも、自民案はあまりに中途半端だ。
 党から支給を受けた政治家が1件50万円を超える支出を対象に「選挙関係費」「調査研究費」など、大まかな項目ごとに支出額を党に報告し、党の政治資金収支報告書に記載するとした。
 大ざっぱな項目で総額を示されても適切な支出かどうか判断できない。ましてや領収書の提出も義務付けないのでは架空支出さえ、まかり通るのではないか。
 自民案が「透明性の向上に資する」(岸田首相)との主張は根拠不明で、固執すればするだけ、国民の支持を失うのは明らかだ。政権の命運は他党の提案を真摯(しんし)に検討し、抜本改革に指導力を発揮できるかどうかにかかっている。
 
政治資金規正法の審議 自民案では土台にならぬ(2024年5月23日『毎日新聞』-「社説」)
 
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衆院政治改革特別委員会で政治資金規正法改正案などが審議入りし、法案の趣旨説明をする自民党鈴木馨祐氏(手前)ら政党・会派の代表者=国会内で2024年5月22日午後4時1分、平田明浩撮影
 通常国会の会期末まで残り1カ月となる中、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正審議が、衆院特別委員会でようやく始まった。
 自民の改正案は改革には程遠い内容で、不透明な資金を温存したい思惑が明白だ。与党の公明党すら共同提出を拒む異例の事態となっている。これでは議論の出発点にもならない。
 まず問題なのは、政党から政治家個人に支出され、使途の公開義務がない政策活動費の扱いだ。
 自民案では、党が「選挙関係」など項目ごとの支出額を政治資金収支報告書に記載するにとどまる。領収書を添付しないため、実際に何に使ったか確認できず、ブラックボックスの実態は変わらない。
 政治資金パーティーの透明化も不十分だ。現在20万円超で購入者名が公開されるが、その基準を10万円超に引き下げただけだ。公明は個人の寄付と同じ5万円超を主張したものの、受け入れられなかった。なぜ10万円超なのか、説得力のある説明はない。
 それ以外の不透明なカネの流れも断ち切れない。公開基準が緩い政治団体を使って、政治資金の使途を分からなくする余地も残された。政治家本人の責任を問う仕組みも中途半端だ。至る所に「抜け道」がある。
 岸田文雄首相は「実効性のある再発防止策を示せた」と自賛するが、毎日新聞世論調査では、自民案を「評価しない」が68%に上った。国民の納得を得られていないのは明らかだ。
 抜本改革を求める野党に対し、自民案を国会に提出した鈴木馨祐(けいすけ)衆院議員はNHK番組で「自民の力をそぎたいという政局的な話」と述べた。不透明なカネが力の源泉と言わんばかりの発言で、反省の色が見えない。
 立憲民主、国民民主両党などが共同提出した法案は、政策活動費を禁止した。パーティー券については、企業・団体の購入を禁止する案も出されている。
 法案の成立には、自民単独で過半数に達しない参院で、公明や野党の協力が必要となる。
 規正法の趣旨は、カネの流れを国民監視の下に置くことだ。より厳格な野党案を基に抜本的な法改正を実現しなければならない。
 
政治資金規正法 改正実現へ与野党は協力せよ(2024年5月23日『読売新聞』-「社説」)
 
 次期衆院選を意識してだろうが、各党が改革姿勢のアピール合戦に終始しているだけでは、信頼回復は 覚束おぼつか ない。
 政治資金は、与野党問わず、政治活動を支える共通の基盤だ。法改正の実現に向け、与野党は協力し合う時だ。
 衆院の特別委員会で政治資金規正法改正案の審議が始まった。自民党の案のほか、立憲民主党と国民民主党が共同提出した案、日本維新の会の案などを議論する。
 自民党の派閥の政治資金パーティーを巡る事件で、国民の政治不信は高まっている。政治資金の透明性を向上させ、国会議員の責任を明確にすることが重要だ。
 各党は、政治資金の扱いに不正があった場合、議員の罰則を強化することでは一致している。
 自民党は、会計責任者が収支報告書を適正に作成したことを議員が確認することを義務づけた。会計責任者が不記載などで処罰され、議員の確認が不十分だった際には、議員は失職する。
 一方、立民、国民民主両党は、政治団体から議員側への150万円超の寄付について報告書に記載しなかった場合、議員に罰金を科し、失職することを定めた。
 いずれの案でも、議員が「会計責任者に全てを任せていた」といった言い逃れは通用しにくくなるのではないか。
 現行法が1件あたり「20万円超」と定めている政治資金パーティー券の購入者の公開基準については、自民が「10万円超」、維新や公明党、国民民主が「5万円超」への引き下げを主張している。
 一方、立民が単独で提出した、パーティーの開催や企業・団体献金を禁止する案は、自民を不利な立場に追い込むための単なるパフォーマンスのように映る。
 1995年に政党交付金の制度が導入された当時も、パーティーの開催や企業・団体献金は認められていた。立民は、議員が資金を集める手段を断ち、どうやって政治活動を続けるつもりなのか。
 改正案について自民、公明両党で協議したのに、与党案がまとまらなかったのは異例だ。
 公明党は「安易に自民党に譲歩すれば、自分たちが支持を失う」と警戒したのだろう。だが、議員立法とはいえ重要法案の採決で与党の賛否が割れることになれば、信頼関係に影響が出かねまい。
 国会は会期末まで残り1か月しかない。各党は、独自姿勢を競い合って肝心の法改正実現を危うくすることのないよう、合意形成に向けて協議する必要がある。
 
政治資金の不正根絶へ実効ある法改正を(2024年5月23日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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衆院政治改革特別委で、提案した政治資金規正法改正案の趣旨説明をする自民党鈴木馨祐氏(22日)
 自民党派閥の裏金問題を受けた各党の法改正案の審議が始まった。「政治とカネ」をめぐる不祥事を防ぐには、収支の透明化と厳罰化が必要だ。与野党は不正を根絶し、政治活動の自由を損なわない制度の確立に向けて、議論を尽くしてもらいたい。
 各会派は22日の衆院政治改革特別委員会で、それぞれの政治資金規正法改正案などの趣旨を説明した。今国会の会期末まで残り1カ月となり、成立に向けた審議の日程はかなり窮屈となる。
 自民党案は政治資金パーティー券の購入者の公開基準を現行の「20万円超」から「10万円超」に下げる。政党が政治家個人に支払う政策活動費は、50万円を超える場合に使途を公開するとした。
 罰則強化では議員に収支報告書の「確認書」提出を義務づけ、会計責任者が不記載などで処罰され、かつ議員が必要な確認を怠った場合は、議員が失職する仕組みを導入する。公明党とパーティー券の公開基準などで合意に至らず、異例の単独提出となった。
 立憲民主党は国民民主党衆院会派「有志の会」と共同で、政策活動費の禁止、議員も会計責任者と同等の責任を負う「連座制」の導入を柱とする改正案を提出した。立民や日本維新の会は、企業・団体献金などを全面禁止する独自案を個別に提出した。
 今回の裏金事件のような不正を防止するには、資金の流れを監視しやすい収支報告と公開の制度が不可欠だ。自民党は政策活動費や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などでも、野党の主張に歩み寄る必要がある。
 自民党内では収入の公開基準をさらに下げると、資金が集まりにくくなるとの懸念が根強い。日本は欧米に比べて個人献金が根付いておらず、与野党議員の多くが政党交付金と企業・団体などの応援に頼っているのは事実だ。
 企業・団体献金や資金パーティーの全面禁止は、政治家一人ひとりの活動経費をどう賄うかという総合的な議論とセットで検討すべきだ。有権者受けを意識した政略的な主張の応酬にとどめてはならない。
 派閥の裏金問題の解明も引き続き重要な課題だ。衆院政治倫理審査会が審査対象として14日に議決した自民党議員44人はまだ誰も出席の意向を示していない。衆参の政倫審などの場を活用し、真相究明と責任追及を急ぐべきだ。
 
政治資金の審議 不正の根を絶つ規正法に(2024年5月23日『西日本新聞』-「社説」)
 
 政治資金を透明化し、事件の再発を防ぐ目的を見失ってはならない。与野党は小手先の法改正ではなく、厳格なルールを作るべきだ。
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、与野党が提出した政治資金規正法改正案の審議が衆院政治改革特別委員会で始まった。
 政治資金の見直しに最も後ろ向きなのは、事件を起こした自民党の案だ。
 政治資金パーティーに関しては、パーティー券購入者の公開基準額を現状の「20万円超」から「10万円超」に引き下げる。寄付と同じ「5万円超」を主張する公明党との与党協議がまとまらず、単独で改正案を提出した。
 議論を公開基準額に矮小(わいしょう)化すべきではない。公開義務のないカネを認める限り、裏金化する可能性は残る。これでは「ザル法」と呼ばれる規正法の穴はふさげない。
 自民が10万円超にこだわるのは、名前の公開を避けたい企業・団体の購入額が減ると考えているからだろう。カネ集めありきで、透明化を後回しにしている。
 1990年代の政治改革で税金を原資とする政党交付金を導入する代わりに、政治家個人への献金は禁止された。企業・団体によるパーティー券購入は、それに代わる実質的な献金として有力な資金源となっている。
 それが不正なカネの温床となっている以上、企業・団体のパーティー券購入を禁止するのは当然である。立憲民主党が提出した法案のように、パーティーそのものの禁止に踏み込むべきだ。
 政党から政治家個人に支出され、使途が公開されない政策活動費の扱いも自民案では不十分だ。
 50万円超を受け取った議員は「選挙関係費」など、大まかな項目別の支出額を党の収支報告書に記載するだけだ。領収書の添付義務はなく、具体的な使途が国民に明らかになることはない。
 不正な支出に歯止めがかかるとはとても思えない。政策活動費の禁止や使途公開の義務化を掲げる野党との隔たりは大きい。
 罰則強化でも、会計責任者が規正法に違反した場合に政治家が連帯責任を負う「連座制」を巡り、意見が食い違っている。
 自民案に他の党が強硬姿勢で臨むのは必至だ。自民は参院議席過半数に満たないため、規正法改正を単独で成立させることはできない。
 岸田文雄首相は「今国会で確実に改正を実現しなければならない」と繰り返す。そうであれば自民案に拘泥することなく、他党の案に歩み寄るほかない。
 政治資金改革と呼ぶにふさわしい法改正を実現することが、国民に対する与野党の責務だ。国会の会期末まで1カ月しかない。「政治とカネ」の問題に決着をつけるため、会期延長を視野に入れて合意形成を尽くすべきだ。