国会閉会に関する社説・コラム(2024年6月22日)

国会閉会と岸田首相 政権の機能不全あらわに(2024年6月22日『毎日新聞』-「社説」)
 
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自民党の代議士会終了後、部屋に残り(左から)茂木敏充幹事長、麻生太郎副総裁と談笑する岸田文雄首相=国会内で2024年6月21日、平田明浩撮影
 「政治とカネ」の問題が焦点となった通常国会が閉会する。
 自民党派閥の裏金事件を受け、改正政治資金規正法は成立したが、「抜け道」だらけで抜本改革にはほど遠い。自民の自浄能力のなさと、岸田文雄政権の機能不全が露呈した。
 裏金事件の実態解明、関係者の処分、再発防止策としての規正法改正のいずれにおいても、政権は逃げ腰の対応に終始した。
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衆院本会議に臨む自民党西村康稔・前経済産業相(奥左端)と萩生田光一・前政調会長(右端)=国会内で2024年6月20日、平田明浩撮影
 衆参両院の政治倫理審査会では、安倍派幹部らは裏金作りへの関与を否定し、言い逃れのような答弁を繰り返した。
 関係議員の処分は、基準があいまいだった。岸田派の元会計責任者が立件されたにもかかわらず、なぜ首相が処分されないのかという不満は、今も党内外に充満している。
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衆院本会議で内閣不信任決議案の趣旨弁明をする立憲民主党泉健太代表(手前)。奥右端は岸田文雄首相=国会内で2024年6月20日、平田明浩撮影
 不透明なカネの象徴である「政策活動費」の速やかな全面公開や廃止は実現せず、野党が要求する企業・団体献金の全面禁止は、検討さえされなかった。
 首相が改革の明確な方向性を示さず、首相官邸と党執行部の連携がとれない場面が多かった。与野党協議などで調整がつかずに行き詰まると、首相が唐突に決断するケースが目に付いた。
 「政治とカネ」以外でも、迷走が続いた。
 定額減税には、首相の増税イメージを払拭(ふっしょく)し、選挙対策に利用する思惑がにじむ。物価高対策の効果は限られ、中小企業から煩雑な事務処理に悲鳴が上がる。
 3兆6000億円規模が投じられる少子化対策の財源確保策として、「子ども・子育て支援金」制度が創設された。首相が「実質的な追加負担はない」と強調したことから、必要な施策を行うための負担を誰にどう求めるかという議論が深まらなかった。
 政権運営からは長期的な視点が欠けたままだ。問題の本質に背を向ける首相の姿勢は、政策決定プロセスを国民から見えにくくしている。
 自民の地方組織や所属国会議員からも、首相の退陣を求める声が上がり始めている。その場しのぎの政権運営を続けていては、国民の政治不信は募るばかりだ。民主主義にとって危機的な状況と言わざるを得ない。
 

通常国会閉幕 実績上げたのに不信感残った(2024年6月22日『読売新聞』-「社説」)
 
 政府が提出した重要法案は順調に成立したが、「政治とカネ」の問題が尾を引き、政治不信を 払ふっ 拭しょく できなかった。政府も与野党も責任は重い。
 通常国会が事実上閉幕した。政府がこの国会に提出した62本の法案のうち、洋上風力発電の設置海域を拡大するための法案を除き、61本が成立した。
 経済安全保障の重要情報を扱う人に資格を与える適性評価制度の創設法案は、身辺調査を伴うため、一部に「プライバシー侵害だ」と批判する動きもあった。
 だが、自民、公明の与党に加え、立憲民主党日本維新の会、国民民主党なども賛成に回った。
 国際社会では、サイバーやAI(人工知能)といった民間の先端技術の軍事転用が急速に進み、機微な情報の保全は喫緊の課題となっている。野党にも、そうした認識が広がっているのだろう。
 また、緊急時に国が自治体に指示できるようにするための改正地方自治法にも、維新や国民民主が賛成した。野党が批判一辺倒ではなく、現実の課題を直視し、協力したことは評価したい。
 重要法案が成立すれば内閣の実績となるはずだ。ところが、岸田内閣の支持率は低迷したままだ。政治資金問題の影響が大きな要因だったことは間違いないが、その問題への対処の拙劣さが不信を増幅させたのではないか。
 東京地検が安倍派と二階派に加え、首相が率いていた岸田派も立件する見通しになると、首相は唐突に岸田派の解散を表明した。
 政治資金規正法の改正案作りを巡っても、当初は自公の実務者に委ねていたが、突然、公明、維新との党首会談で両党の要求をほぼ丸のみして決着させた。
 首相が実務者らの判断を超えた決断をすること自体は必要だが、自らの意を事前に説明せず、サプライズ効果を狙ったかのような手法をとったため、国会での法案処理に混乱を招くことになった。
 首相が政権の危機を乗り越えるには、党と一体となって政治を安定させることが不可欠だ。
 野党側も、次期衆院選を意識し、自民の政治資金問題への消極姿勢を印象づけることに終始した。
 政治資金は本来、政治活動を支える与野党共通の基盤のはずだ。政治資金を監視する第三者機関の設置など積み残された課題について、各党で早急に協議し、実効性のある結論を出す必要がある。
 内外の課題は山積している。与野党は、閉会中審査を積極的に活用して議論を深めるべきだ。