規正法の自公維合意 改革に背を向ける茶番劇(2024年6月1日『毎日新聞』-「社説」)
これでは「政治とカネ」の問題の抜本改革にはならない。
裏金作りに使われた政治資金パーティーは温存された。券購入が事実上の企業・団体献金となっている。現行で「20万円超」としている購入者の公開基準は、「5万円超」へ引き下げられる。「10万円超」に固執していた自民が公明の主張を受け入れたものだが、最低限のラインに過ぎない。
維新を含め野党が禁止を主張する企業・団体献金については、全く触れていない。
使途の公開義務がなく、不透明なカネの温床となっている政策活動費の見直しも、先送りされた。
維新案を反映し、政党からの年間支出に上限を設け、領収書を10年後に公開する。だが、具体的な制度設計は「早期に検討」と法律の付則に記すだけだ。導入時期も示されていない。
そもそも、透明性を確保するなら即時に全面公開すべきだ。維新以外の野党は廃止要求で足並みをそろえている。
政策活動費の内容をチェックする第三者機関を設けるというが、「監査の在り方を含め検討」などあいまいな表現にとどまる。
付則には、施行後3年をめどに見直すとの規定も入った。30年前の規正法改正時も5年後の見直しが盛り込まれたものの、手付かずのままだ。時間がたてば国民の関心も薄れると、高をくくっているのではないか。
しかし、改革の中身よりも、各党の面目と利益を優先した茶番劇だ。不十分な案で合意した公明と維新は、「同じ穴のムジナ」と見られても仕方あるまい。
規正法の目的は、政治資金の流れを国民監視の下に置くことにある。裏金体質の旧弊を断ち切り、ガラス張りの政治を一日も早く実現しなければならない。
アナグマはムジナとも称され、タヌキなどと混同されることがある。違う動物でも巣穴で暮らすと同じようにみえる。違っていても悪巧みをする仲間を「同じ穴のムジナ」というのは一説によると、このためという
▲公明党の山口那津男代表は自民党の裏金問題に関し「同じ穴のムジナとみられたくない」と予防線を張っていた。だが、公開基準を「10万円超」にとどめたい自民党に譲歩するとの観測がいったん広がったため「結局、同じ穴のムジナなのか」(泉健太・立憲民主党代表)と批判されていた
▲党首会談という舞台まで設けて合意をアピールしたのは、よほどムジナ批判の拡大をおそれたのだろう。ただし、企業・団体のパーティー券購入規制など、改革の本丸に踏み込まぬ合意だ。小手先の対策に日数を費やしたこと自体、与党の危機感欠如の表れである
小沢氏は党執行部を批判した
隠居した三屋清左衛門は、まだ現職の町奉行である旧友、佐伯熊太のあり方に思う。「遮二無二現実とつき合う元気がないと、人は政治の生ぐささなどというものとは、なかなかそういつまでもつき合いきれるものではない」。藤沢周平の時代小説『三屋清左衛門残日録』の一節である。
▼もっと政治に関心を持とうと呼びかけてきたが、現実の政治を追うのはときにしんどい。政治資金パーティー券購入者名の公開基準を、現行の20万円超から5万円超へ引き下げたからどうだというのか。岸田文雄首相の大決断だといわれると、安全保障環境や国民生活とどんな関係があるのかと、ついまぜ返したくもなる。
▼自民党のパーティー収入不記載問題を追及してきた立憲民主党もみっともない。パーティー開催禁止法案を衆院に提出しておきながら幹部がパーティー開催を計画し、身内の小沢一郎衆院議員にこう指摘される始末である。「頭がおかしいのではないか。法案を出したのだから、その時点でなしなんだよ」
▼与野党双方で生じ、国会議員だけでなく地方議員にもある不記載問題が派閥の問題にすり替えられ、パーティー開催の是非や公開基準の話へと転じ、議論が拡散していく。国際情勢が風雲急を告げる一方で、国会の最優先テーマがこれでいいのだろうか。
▼たまたま最近、元時事通信の田中角栄元首相番記者で元新潟県佐渡市議会議長の猪股文彦氏から著書『田中番が見た〝角さん〟の真実』が届いた。読むと、田中氏の「お金の渡し方」についても堂々と記されていた。いわく頭を下げて、負い目を感じさせないように渡す…。
▼金権政治といわれた時代に戻りたくはないが、世の中せせこましくなった気もする。
規正法再修正案 金権腐敗の根は断てぬ(2024年6月1日『東京新聞』-「社説」)
だが、企業・団体献金や政策活動費を温存する内容にとどまる。金権腐敗の根を断ち、政治の信頼を回復できるのか甚だ疑問だ。
再修正案は政治資金パーティー券の購入者名の公開基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げ政策活動費は10年後に領収書や明細書を公開する内容。自民党が2回にわたり提示した案はいずれも賛同を得られず、公明、維新両党の主張を取り入れ再修正した。
パーティー券購入者の公開基準を5万円超に引き下げても、5万円以下なら政治資金収支報告書に明記する必要がなく、裏金に回る余地はある。抜け道を封じるにはパーティー券収入の全面公開か、パーティーの禁止が不可欠だ。
政党が党幹部らに支出する政策活動費の使途を10年後に公開することは全く使途不明な現状からは半歩前進だが、なぜ10年なのか。
政党の多くは収入の50%以上を税金を原資とする政党交付金に頼る。そもそも税金の使い方を10年間も国民に隠す道理はなく、通常の政治資金同様、翌年に公開すべきである。10年後に不適切使用が明らかになっても、党幹部が代われば責任はあいまいにされる。
党活動の秘密や外交機密を10年間秘匿の理由に挙げるが、どんな場合か具体的な説明を聞きたい。
政権与党に多額の献金をした企業や業界団体に有利な政策が決まり、与党は「カネの力」を駆使しまた選挙に勝利する…。