自民党、公明党、日本維新の会などが賛成して衆院を通過した政治資金規正法改正案は、参院質疑でも多くの問題点が指摘された。こうした中、維新が重視する調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などの改革については、23日に会期末を迎える今国会中の関連法改正が見送られる見通しとなり、維新は党首会談での合意が破られたと自民に猛反発。維新は参院採決では一転して反対に回ることになった。(時事通信解説委員 村田純一)
政治家の責任・罰則強化、徹底せず
規正法改正案の問題点を続けよう。裏金事件を受けた政治資金改革では、政治資金収支報告書の記載・提出義務がある会計責任者だけではなく、政治家本人の責任・罰則強化をどう図るかが焦点の一つだった。自民案は、収支報告書の「確認書」を会計責任者に交付するよう議員に義務付け、不記載があって確認が不十分だった場合は、公民権停止につながる罰則も科すとしている。
裏金事件では、政治家が「秘書がやったことで自分は知らない」とし、法的責任を免れた例が相次いだ。再発防止のためには、秘書ら会計責任者だけに責任を負わせるのではなく、政治家の責任・罰則も強化する「連座制の導入」が必要と野党は求めていた。
立憲民主党の西村智奈美氏は6日の衆院本会議で、自民案の「確認書」制度について(企業・団体献金の禁止なし、政策活動費の温存に続く)「第3の欠陥」だと指摘し、「連座制など政治家本人の責任の取り方が徹底されていない」と批判した。
「会計責任者の説明に問題があった、確認したが気付かなかったーなどと、これまで同様、言い逃れの余地を残している」というわけだ。
これに関しては、立民の小西洋之氏も参院政治改革特別委員会で「政治家が裏金の存在を全く知らなかった場合、今までと同じだ」と追及。自民党の小倉将信氏は「全く知らないことは今後起こり得ない」としつつも、確認の義務を履行しても裏金の存在を把握できない場合、「罪は負わない」と述べた。政治家に「確認」の責任も、罰則の適用もなければ、政治家の「確認」とはしょせん形だけになるのではないか。
「第4の欠陥」として、西村氏は「政治資金パーティーの規制が全く不十分」と断じた。「裏金づくりの再発防止策に全くなっていない。公開基準額5万円超であれば、5万円以下は政治資金収支報告書に明記する必要がなく、裏金に回る余地がある。パーティー券収入の全面公開、パーティー自体の禁止が不可欠。抜け道だらけの自民案では裏金づくりの根絶には全くつながらない」
共産・塩川氏も「パーティー券は公開基準を5万円超にしたが、1回当たりにすぎず、複数回に分ければこれまでと何ら変わらない。抜け道を温存するものだ」と強調した。
ただ、政治資金パーティーの開催をめぐっては、立民がパーティー開催を禁止する法案を出しておきながら、岡田克也幹事長ら幹部がパーティー開催を予定していたことが問題化し、党内外から批判を浴びた。「頭がおかしいんではないか」(立民の小沢一郎氏)とまで言われ、結局、開催中止に追い込まれた。立民にとって重大な政治判断ミスだったことは間違いない。
野党内に、企業・団体献金や政治資金パーティーの禁止について、異論があるのは事実だ。小沢氏は記者団に、献金禁止について「反対だ。何をばかなことをやっているのだ」と立民執行部を批判。パーティー開催も「何が悪いのか」と持論を語っている。実際、政治資金集めに四苦八苦する野党議員にとっても、パーティー開催の禁止というのは厳しい政治資金改革の選択肢だが、一度決めた以上は世論が納得する筋を通さなければなるまい。
国民民主党の田中健氏の衆院本会議での発言も紹介しよう。田中氏は自民案について「検討のオンパレード。実際にやるかどうかも担保されない規定が並び、多くの事項が先送りされている。特に政策活動費はあちらこちらに穴があり、ザル法のままだ」と指摘した。「非課税かつ非公開の資金はなくす。非課税の恩恵を受けたいなら、使途を完全公開すべきだ」という主張はもっともだ。
維新、企業献金批判も自民案に修正合意
浦野氏は「裏金事件で失った国民の信頼を取り戻すには全く不十分との認識は変わらない。特に、企業・団体献金の禁止に一切手がつけられていないことは、身を切る改革を党是に掲げるわが党としては無念の極み」とも強調した。
「企業・団体献金が政策をゆがめている証拠となる事実は枚挙にいとまがない。①医師会からの診療報酬に関する要望と献金②経団連による「通信簿方式」の献金③租税特別措置や補助金を求める各業界からの献金など、もはや政治献金は合法的な賄賂のように扱われているケースも増えており、本来の趣旨である浄財とは言えない現実について、各党各会派から何度も指摘されてきた。いかに自民党が詭弁を弄しても、正当化できるものではない。裏金の温床となった政治資金パーティーが、企業・団体献金の抜け道になっている現実を踏まえれば、今回改正すべき項目のど真ん中に、企業・団体献金があるべきだ」
以上は、立民、国民などが提出した規正法改正案に、企業・団体献金の廃止が盛り込まれていることを評価し、この野党の改正案にも賛成する理由を述べたものだ。
維新の浦野氏は「法律が成立したとしても、検討して結論を得る項目を詰める際に、抜け道が残されないよう、各党各会派で強力に自民党に迫っていく必要がある。改革を実現する政治闘争、まさにこれからだ」と野党陣営に協力を呼び掛けたのだ。
ここまでは、維新幹部にとってある程度、満足できる展開だっただろう。維新が要求する三項目のうち、国会議員に毎月100万円が支払われる旧文通費の改革を含む二つは自民に「丸のみ」させ、改革実現を目指す維新の存在感を示すこともできたと思ったはずだ。「企業・団体献金の禁止」は、自民党の抵抗が強過ぎて今国会での実現は困難とみた上で、妥協に応じて改革を進める現実的な判断もあり、維新の馬場伸幸代表は岸田文雄首相(自民党総裁)との党首会談で合意文書に署名したのだろう。
旧文通費改革、実現時期は記載せず
ところが、である。自民党の浜田靖一国対委員長が11日、旧文通費改革について「日程的に見ると厳しい」と、今国会中に成案を得るのは難しいとの認識を示したことから、維新は猛反発した。馬場氏は記者団に「『うそつき内閣』と言っても過言ではない。約束を破るなら最大限の力で自民を攻撃する」と批判。参院で審議中の規正法改正案への反対も辞さない姿勢を示した。
ただ、合意文書には「今国会中の実現」といった文言や、いつまでにという期限が入っていないことも事実。馬場氏は13日の記者会見で、期限を盛り込まなかったとについて、当初の調整では「今国会中に結論を得る」と記されていたが、自民側から期限を入れないよう要請され、「信用してほしい」とまで言われたから削除に応じたという内幕を明らかにした。文書に残さず、自民の言葉を信じたわけだ。詰めが甘いと言わざるを得ないだろう。
かつて対立案件をめぐる与野党協議では、国対委員長間で突っ込んだ協議を行い、どうしても与野党合意が難しい場合は、その上のクラスの幹事長会談に持ち込まれ、それでも合意が困難な場合、党首会談で決着という場面をよく見てきた。党首会談に上がる場合、ある程度の合意ができていて、セレモニー的な要素がないわけでもなかったが、それでも党首会談での合意は重たいものだった。
それはともかく、維新の基本姿勢は政策重視の「是々非々」。政策によっては与党にも野党にも付く。他の野党は、今回の維新の動きを冷ややかにみている。
結局、自民が17日、今国会での旧文通費改革を見送る方向で調整に入ったことから、維新は参院採決では自民の規正法改正案に反対へ。岸田首相は旧文通費改革について「早期に結論を得たい」と語りつつも、「具体的な実現時期は合意文書に記載されていない」と、しれっと語っていた。やる気も求心力もない首相に指導力を期待しても無理がある。何事も口先だけの言葉を信じてはいけない。
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