自民党総裁選、派閥解散で候補者乱立の予想 現職首相の敗退は福田赳夫氏だけ 伊藤達美(2024年6月16日『週刊フジ』)

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追い込まれた岸田首相の「決断」が注目されている
今年9月には自民党総裁選が予定されている。おそらく、通常国会が閉幕すれば、政局は総裁選に向かって一直線に流れるだろう。
麻生派以外の派閥が解散してしまった今回は、これまでの総裁選とは全く違った様相を呈するのではないか。
まず、これまでより多くの候補者が立候補することになるだろう。派閥が推薦する候補以外への推薦人に名を連ねることはなかったが、派閥のくびきが解き放たれたことで推薦人の確保が容易になるからだ。
実際、現在のような派閥が定着していなかった時代の総裁選には、多くの議員が立候補していた。候補者乱立が良いとはいえないが、これまで目立たなかった新たな人材が立候補すれば、国民の耳目も集まるのではないか。
また、これまでの総裁選は派閥領袖(りょうしゅう)の意向が分かれば、ほぼ結果を予想することができたが、今回はそうはいかない。「派閥の締め付け」がなくなれば、投票先を決めあぐねる議員も増えるだろう。最後まで予断を許さない選挙戦になるだろうし、激しい戦いが展開されることになるのではないか。
総裁選の過程で「派閥的」なグループが生ずるのは当然だろう。また、そうしたグループが、旧派閥の人間関係が色濃く反映されたものになることも想像に難くない。
これをもって、「古い自民党の復活」「派閥脱却は噓だった」といった批判が行われるかもしれないが、「為(ため)にする批判」だと思う。
筆者は、「派閥は必要だ」と考えている。
複数の派閥が存在していることによって、党執行部の専横を牽制(けんせい)し、党の民主的運営を確保するうえで大きな役割を果たしてきたともいえる。それは、執行部の権限が強大化しがちな小選挙区制導入によって、より重要になってきた側面もある。
派閥の行き過ぎを改めるのは当然としても、派閥そのものを否定する必要はないのではないか。
ところで、総裁選に岸田文雄首相は立候補するのか。今月初めに読売、朝日の両紙は「今国会での衆院解散見送り」を報じたが、あくまで岸田首相が総裁選再選を意図している前提で解説していた。
総裁選の歴史を振り返ると、現職の首相が敗退したのは福田赳夫首相の例だけだ。しかし、初めて党員投票を組み込んだ総裁選が行われた中で生じた例外的事例と見るべきだろう。通常は、「信任投票的」な総裁選とならないことが判明した時点で、立候補を辞退する例が多い。
はたして、岸田首相はどうするのか。現職首相が多くの立候補者の中の一候補として論陣を展開し、勝利しようとしているのだろうか。総裁選の様相はそれによって、大きく変わってくるだろう。 (政治評論家 伊藤達美)