表現の現場で横行「ハラスメント」の実態 男性の19% 、女性の15%が「性的行為を求められた」(2024年6月24日『弁護士ドットコムニュース』)

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会見したメンバー(提供:表現の現場調査団)
美術や映画、音楽、文芸など「表現の現場」の当事者を対象とした民間団体によるアンケート調査で、表現の現場でハラスメントを受けた経験があると回答した人の割合がそれ以外の場で働く人に比べて2倍以上だったことがわかった。
調査を実施したのはアーティスト、映画監督、舞台俳優、作家、美術家などの有志が設立した「表現の現場調査団」。今回の調査目的は、表現の現場におけるハラスメントの実態や、キャリアにおけるジェンダーギャップを明らかにすることと位置付けている。
アートユニット「キュンチョメ」のメンバーで同調査団のホンマエリさんは6月24日、都内で開かれた会見で、「ハラスメントという言葉は聞き慣れてしまったかもしれません。でも、その言葉の裏には、今もつらい思いをしていたり、苦しんでいたり、泣いていたり、眠れなくなっている人がたくさんいます。その深い悲しみを私はなくしたい。私たちの活動は、その悲しみをなくすためにあるものです」と調査の意義を強調した。
●主なセクハラ「わい談を聞かせる」「キス、抱きつき」
調査は2023年10月4~9日の間に、スクリーニング調査で2万人の回答を得たうえで、表現の現場での活動経験者に絞り込み、特定の性別や年代に偏らない712人の回答と、表現活動を行っていない99人の回答を分析した。
回答者は、「美術」「演劇・パフォーマンス・ダンス」「映像・動画・映画」「デザイン」「音楽」「文芸・ジャーナリズム」「写真」「アニメーション」「ゲーム」「マンガ・イラスト」「建築」「服飾」「お笑い」「工芸・伝統芸能・伝統文化」の14の表現分野で活動する者とし、音楽で活動する回答者(92人、26.4%)がもっとも多かった。
セクハラ・SOGIハラの被害状況について、現在活動中の表現者では「キス・抱きつく・性的行為を求められた」経験があると回答した人が14.6%だったのに対し、表現の現場以外で働く人では6.1%だった。
ハラスメント経験者のうち、通院したり服薬をした人の比率についても、表現者では14.6%であるのに対し、表現の現場以外で働く人では6.3%で、高い割合を示したという。
セクハラの内容として、「わい談を一方的に聞かされる」が男女ともに2割を超えてもっとも多く、男性被害者は「キス・抱きつく・性的行為を求められる」がその次に多く(19.2%)、女性被害者は「密室に誘われる」が多かった(17.3%)。
「キス・抱きつく・性的行為を求められる」を被害経験として選んだ男性の割合(19.2%)は女性(15.6%)を上回ったことについては、女性から男性へのセクハラや男性同士のセクハラは未だ認知が進んでいないことや、加害者側が「ほんの冗談だった」で済ませられると考えていることがあるのではないかとしている。また、男性が声を上げることの心理的ハードルの存在も指摘する。
セクハラとSOGIハラの経験割合が高い表現分野として、「演劇・パフォーマンス・ダンス」分野と「映像・動画・映画」分野を挙げる。
●ハラスメント被害者の方が指導的立場になりやすい可能性
調査では、女性の表現者は、年収が高くなると男性以上にセクハラに遭いやすいことが示されたという。
「キス・抱きつく・性的行為を求められた」を受けたとする人の割合は、年収400万円以上の女性が30.7%ともっとも高く、「密室に誘われる」を受けたとする人の割合についても、年収400万円以上の女性が38.4%ともっとも高い結果とだった。
また、指導的立場を経験したことがある表現者ほどハラスメントを受けた割合が高く、表現活動中に「ハラスメントを受けた」と回答した人のうち、21.3%が「他人の作品・表現を監督・評価・指導する立場」を経験しているのに対し、「ハラスメントを受けたことがない」と回答した人では指導的立場を経験する人は11.1%だった。
「指導的立場」に就くにはハラスメントサバイバーとならなければならないことを意味している可能性や、かつてハラスメント被害者だった人が加害者になるという悪循環が生まれている可能性があるという。
深田晃司監督「自分も激しいパワハラを受けた」
会見に出席した映画監督の深田晃司さんは、映像・動画・映画分野では「人格否定・罵倒・叱責」が他の表現分野(22.1%)に比べて倍近い被害割合(40.9%)が示されたことについて、「自分も20数年前に結構激しいパワハラやセクハラを受けてきた」と話し、「この数値に違和感ない」という。
「ここ数年の間でもスタッフに殴られたという声を聞きましたし、自分が講師として教えている大学の学生に撮影現場の環境について書いてもらった際、『非常に悪質なパワハラにあった、見てしまった』と書いた学生がいました。
今は減ったと思いたいし、減っているとは思いますが、やっぱりなくなってはいない。簡単に『今は大丈夫、ハラスメントなくなったよ』などと言ってはいけないということを感じます」(深田さん)
ホンマエリさんも、「『ハラスメントは良くない』と声をあげることが、ハラスメント加害者の隠れ蓑になっているというパターンが結構あると思う」と警鐘を鳴らす。
「たとえば、ハラスメントに否定する意見をアピールする指導者がいて、『あの先生は大丈夫なんだ』と安心して近づいてみると、実はその人がひどいハラスメント加害者だったというようなケースがまだまだ起こっています。
ハラスメントは良くないという声が上がっていることは事実ですが、まだ(被害現場の)実態には追いついておらず、(ハラスメント根絶に向けて)厳しい姿勢を見せていかなければいけないと思います」(ホンマエリさん)
 
弁護士ドットコムニュース編集部