警察の「内部告発潰し」はここでも!広島県警での隠蔽工作の証拠音声を入手(2024年6月7日『SlowNews/スローニュース』)

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公金不正と隠蔽工作の舞台となった福山北警察署(2023年11月)
職務上知り得た秘密を漏らしたとして、前・鹿児島県警生活安全部長(警視正)が逮捕された事件が話題になっている。「漏えいしたとされる情報は、不適切な捜査や事件処理を訴える内容とみられる」と地元の南日本新聞が報じたのがきっかけだ。
さらに地元の各メディアが報じたところによると、5日に鹿児島簡易裁判所で開かれた、勾留理由の開示を求める手続きで、元部長は「現職の警察官が行った犯罪行為を県警本部長が隠ぺいしようとしたことが許せなかった」と意見陳述した。事実だとすれば、内部告発を潰すために公権力を濫用したまさに犯罪的な行為だ。
実は昨年、広島県警でも「内部告発潰し」と見られる隠蔽工作が行われていたのをご存じだろうか。
広島県警では公金不正の隠蔽工作
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内部告発をした元警察官の粟根康智氏(2023年12月)
広島県警福山北警察署の警備課で2019年から2020年にかけ、警備課長の指示により課内ででカラ出張が何度も繰り返され、実態のない“出張”に対する旅費や時間外手当などが公金から支出されていた。
当時、不正を告発する匿名の投書が県警の監察官室にもたらされたが、福山北警察署の警備課長が捜査員らに対して口封じの隠蔽工作を行い、投書は闇に葬られようとしていた。元巡査部長の粟根康智氏も課長から口封じをされたが、自らもカラ出張を強いられ、同僚らの不正行為も目の当たりにしていたことから警察官として放置しておけないと考え、自ら公益通報内部告発)をして職を辞した。それでも、告発は放置されたままだった。
フロントラインプレスが独自の取材で不正経理の疑いについてスローニュース上でスクープを発信したところ、告発を放置していた県警もようやく動き、カラ出張を指示した警備課長をはじめ関与した警察官3人を詐欺と虚偽公文書作成・同行使の容疑で書類送検した(広島地検は不起訴処分にした)。
「口封じ」の証拠音声を独自入手、警察庁官房長の国会答弁は事実と違う可能性
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太刀川浩一・警察庁長官官房長(参議院インターネット審議中継より)
そもそも、なぜ警備課長は口封じの工作をしたのか。粟根氏によると、「匿名の投書ついて、監察官はカラ出張を指示していた警備課長に投書を見せたため、課長が課員の口封じに動いた」という。
この件について、5月16日午後の参議院内閣委員会で答弁に立った警察庁の太刀川浩一・長官官房長は「これまでの本件に関する広島県警の調査の結果、ご指摘のような文書を対象者(警備課長)に見せたというような事実は確認できなかったとの報告を受けている」と言及。カラ出張を命じていた警備課長に監察官が投書を見せた事実はないと明言した。
しかしフロントラインプレスは5月28日までに、警備課長による当時の口封じの様子や監察官の対応などを記録した複数の録音(音源)を入手した。警察関係者から提供を受けた録音の総時間は、約5時間30分。その1つには、当時、警備課長が監察官に投書を見せてもらったと明言したうえで、課員に口封じを重ねていたなどと語る様子がそのまま記録されている。
広島県警は「投書」をめぐる状況を詳しく把握しながら、警察庁に報告していなかった可能性がある。
まだ真相は明らかになっていない
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広島県警は、関係者の書類送検によって事件の幕引きを図りたいと考えているようだが、真相はまだ明らかになっていない。粟根氏や代理人の弁護士らによると、3つの点はいまだ解明されていない。
まず一つが、先に述べた監察官室による公益通報の漏洩を認めていない点だ。それについては証拠の録音もある。
次に、そもそも送検容疑など県警が認定した事実は、粟根氏自身の経験と大きく食い違うことだ。罪を認めて自首した形の粟根氏は書類送検もされず、カラ出張で不当に得た金額も県警の認定金額と食い違っている。
3つ目は捜査協力者に渡ったはずの「捜査費(国費)」の行方が確認できていないことだ。捜査費とは表に出せないものであり、協力者と対面して現金で渡されるケースが多いが、出張そのものが架空だったことから、多額の捜査費にも不正があった疑いが出ている。
粟根氏は今も、真相を埋もれさせてはいけない、事実を徹底解明してほしいと強調している。