鹿児島県警察本部の元生活安全部長が個人情報を含む内部文書を第三者に漏らしたとして逮捕された事件で、文書は先月、別の情報漏えい事件の捜査の過程で関係先から見つかっていたことが分かりました。警察は漏えいされた文書がさらに別の人物にわたっていた疑いがあるとみて調べています。
元部長は「県警本部長が職員の犯罪行為を隠蔽しようとしたことが許せなかった」などと主張しています。
鹿児島県警察本部生活安全部の元部長、本田尚志容疑者(60)は、退職後のことし3月下旬、個人情報などを含む警察の内部文書を第三者に郵送し、職務上、知り得た秘密を漏らしたとして、国家公務員法違反の疑いで逮捕されました。
漏えいしたのは、警察官による鹿児島県内でのストーカー事案の捜査結果の文書で、札幌市の第三者に郵送したことが、5日に裁判所で行われた勾留理由の開示手続きで明らかになっています。
この文書は、鹿児島県警の曽於警察署の巡査長が刑事事件の内部文書を福岡市の会社役員に提供したとして逮捕・起訴された事件の関係先から見つかっていたことが関係者への取材で分かりました。
5日の裁判所での手続きで元部長は「不祥事をまとめた文書を記者に送ることにした」と陳述していて、警察は、漏えいされた文書がさらに別の人物にわたっていた疑いがあるとみて調べています。
一方、元部長は内部文書を記者に送った理由について「県警職員が行った犯罪行為を鹿児島県警の野川本部長が隠蔽しようとしたことがあり、そのことがいち警察官としてどうしても許せなかった」と述べました。
漏えい疑いが発覚した経緯は
漏えいの疑いが発覚したのは、去年10月に掲載されたネットメディアの記事がきっかけでした。
「告訴・告発事件処理簿一覧表」と呼ばれる内部文書が、個人情報が黒塗りにされた状態で掲載されました。
鹿児島県警によりますと、内部文書には警察が告訴や告発を受理した事件の当事者の名前など、95の事件のあわせて304人分の個人情報のほか、事件への対応状況も記されていたということです。
ことし3月、情報漏えいが明らかになり、鹿児島県警の曽於警察署の巡査長が、内部文書などを第三者に漏らしたとしてことし4月に逮捕され、先月起訴されました。
この捜査の過程で本田元部長による漏えいの疑いが発覚したということです。
警察官が関わった事件の内部文書か
野川本部長「必要な確認を進めていく」
鹿児島県警察本部の元生活安全部長が内部文書を第三者に漏らしたとして逮捕された事件を受けて、野川明輝本部長は6日午後5時半から県警本部で取材に応じました。
この中で「警察職員の模範となるべきものが逮捕されたことを大変重く受け止めている。引き続き事件の全容解明を図るとともに抜本的で網羅的な非違事案防止対策を進めていく」と述べました。
一方、逮捕された元部長が「本部長が職員の犯罪行為を隠蔽しようとしたことが許せなかった」などと述べていることについては「勾留の理由の開示の中で主張があった事案については被疑者を逮捕するなど必要な対応をとっている。被疑者の主張については事件捜査の中で必要な確認を進めていく」と述べました。
警察庁長官「必要な対応がとられていたと報告」
- 注目
元部長が裁判所で述べた意見(全文)
今回、職務上知り得た情報が書かれた書面を、とある記者の方にお送りしたことは間違いありません。
私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことがあり、そのことが、いち警察官としてどうしても許せなかったからです。
野川本部長は令和4年に赴任されました。
野川本部長は、独断ですべてを決められる方で、我々の考えを本部長に提案しても、本部長の一存で否定されることが多く、多くの職員が疲弊し、考えても無駄だという雰囲気が広がっていきました。
そんな中、令和5年12月中旬、枕崎のトイレでの盗撮事件が発生しました。
この事件で、容疑者は、枕崎署の捜査車両を使っており、枕崎署の署員が容疑者であると聞きました。
この事件は、現職の警察官の犯行ということで、野川本部長指揮の事件となりました。
生活安全部長として、この事件の報告を受けた私は、現職の警察官がこのような犯罪を行ったということに強い衝撃を受けました。
当時、既に複数の警察官による不祥事が発覚しておりましたので、県警の現状に危機感を抱くとともに、県民の皆様に早急に事実を明らかにして、信頼回復に努めなければならないと思いました。
我々としては、当然、早期に捜査に着手し、事案の解明をしようと思いました。
そして、私は、捜査指揮簿に迷いなく押印をし、それを、野川本部長に指揮伺いをしました。
しかし、野川本部長は、「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言って、本部長指揮の印鑑を押しませんでした。
この時期は、警察の不祥事が相次いでいた時期だったため、本部長としては、新たな不祥事が出ることを恐れたのだと思います。
私は、本部長が警察官による不祥事を隠蔽しようとする姿にがく然とし、また、失望しました。
県民の皆様に申し訳が立たないと思いました。
私は、いち警察官として、目の前に犯罪があり、容疑者も分かっているのに、その事実を黙殺しようとする姿勢が理解できず、心底腹が立ちました。
県民の皆様の安全より、自己保身を図る組織に絶望しました。
そんな中、現職警察官による別の不祥事が起こりました。
それは、警察官が一般市民の方から提供を受けた情報をまとめた巡回連絡簿を悪用して犯罪行為を行ったというものでした。
この件についても、現職警察官の事件ということで本部長指揮の事件となりました。
私は、この件についても、県民の皆様の信頼を失う行為であることから、この事実を県民の皆様に公開し、説明すべきだと思いました。
しかし、この事件も、明らかにされることはありませんでした。
私は、不都合な真実を隠蔽しようとする県警の姿勢に、更に失望しました。
私は、今年の3月で、警察官の職を定年で退職しました。
ですが、私が定年退職する時期になっても、枕崎の件も、別の不祥事の件も公表されることはありませんでした。
私は、警察官として、「うそを言うな。隠すな」との教育を受けてきました。
不祥事があった場合には、それを隠すのではなく、県民の皆様に明らかにした上で、改善を図っていくべきだと思っていました。
しかし、現状の鹿児島県警は、その教えに反し、事実を明らかにしようとしませんでした。
私は、自分が身をささげた組織がそのような状況になっていることが、どうしても許せませんでした。
私は、退職後、この不祥事をまとめた文書を、とある記者に送ることにしました。
記者であれば、個人情報なども適切に扱ってくれると思っていました。
マスコミが記事にしてくれることで、明るみに出なかった不祥事を、明らかにしてもらえると思っていました。
私が退職した後も、この組織に残る後輩がいます。
不祥事を明らかにしてもらうことで、あとに残る後輩にとって、良い組織になってもらいたいという気持ちでした。
実際、私が送った文書がきっかけになったと思いますが、枕崎署の署員の事件は、今年の5月になって、署員が逮捕されることとなりました。
今回、私が行った行為により、多くの方々にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ないと思っています。
ですが、私としては、警察官として、信じる道を突き通したかったのです。
決して自分の利益のために行ったことではありません。
鹿児島県警においては、間違っていることは間違っていると認め、県民の皆様に、再び信頼してもらえる組織に生まれ変わってくれること心より願っております。