製造業は内部告発に頼らぬ不正対策を(2024年5月2日『日本経済新聞』-「社説」)

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子会社がエンジン試運転時のデータを改ざんしていたことについて、記者会見で謝罪するIHIの盛田英夫副社長(中)ら(4月24日、東京都江東区
 
 またしても日本を代表する名門企業による耳を疑うような不正が明らかになった。IHIの子会社が船舶用エンジンのデータを改ざんしていた。燃費や排ガスの数値をごまかす行為は1980年代から続いており、この20年間だけでも不正の対象は9割弱の製品に及ぶという。
 あきれるばかりだが、同様の不祥事は枚挙にいとまがない。ダイハツ工業日野自動車三菱電機など、いずれも有力企業だ。
 もはや看過できる事態ではない。日本企業の経営改革が市場で評価される中での不祥事は痛手であるだけでなく、不信の目が「メード・イン・ジャパン」全体に向けられていると認識すべきだ。
 これらの不正が発覚したきっかけの多くが内部告発だ。消費者や顧客を欺く行為を白日の下にさらす意義は大きい。勇気ある通報者が不利益を被らないよう、会社側はできる限り配慮すべきだ。
 一方で、経営者には相次ぐ不正を他山の石としてもらいたい。内部告発を待つことなく、現場に潜んでいるかもしれない膿(うみ)をあぶり出すことを求めたい。
 一筋縄ではいくまい。製造業で相次ぐ検査などの不正の共通点のひとつに、現場にはびこる強い「ムラ意識」がある。本社が監査に乗り込んでも、不正の実態を解明することは容易ではない。
 実際、日産自動車神戸製鋼所の検査不正が明らかになった2017年には、経団連が加盟するメーカー約1300社に品質データに関する総点検を求めた。多くの加盟社が実行したはずだが、十分な成果があったとは言い難い。
 本気で不正をあぶり出すためには、従業員へのアンケートなど旧来の手法だけでは不十分だろう。生産や開発の工程ごとに、誰がいつどんな行動を取ったのかなどのデータから、現場の実態を詳細に把握する必要がある。
 会社にとってはコスト負担が増える。だが、予期せず不正が発覚した場合に被る損失を考えれば無駄な出費とは言えまい。
 一部では、製品に関する規制や法規が現状にそぐわないケースが見られるという意見もある。ならば、まずは関係者に対してルールの変更を訴えかけるべきだ。
 「ものづくり」は日本経済を支え、多くの雇用を生み出してきた。これ以上の信用失墜を防ぐために、経営者には今こそ実効性のある行動が求められる。