自民の有力スポンサー日本医師会「地元政治家との関係強化を」 会員医師らに「政治」のススメ(2024年6月3日『東京新聞』)

 

<医療の値段・第3部・明細書を見よう>⑤

 「みな内科系の診療所は怒り心頭に発しているという感じです」
 今年3月末、東京・本駒込日本医師会(日医)で開かれた日医臨時代議員会。各都道府県から来た約370人が一堂に会する中、愛知県の代議員は質疑応答で、壇上に居並んだ日医の役員に訴えた。
日本医師会の臨時代議員会。松本吉郎会長は6月の会長選への出馬を表明した=3月31日、東京・本駒込の日本医師会で

日本医師会の臨時代議員会。松本吉郎会長は6月の会長選への出馬を表明した=3月31日、東京・本駒込日本医師会

 2024年度の診療報酬改定率はプラス0.88%と14年度以降で最も高かった。国民医療費は予算ベースで48兆8800億円。改定率は4300億円に相当するが、代議員は「0.88%は名目の数字で、あまり意味がない」と執行部の面目をつぶすようなことを言った。なぜ診療所は「怒り心頭」なのか。東京都内の開業医が言う。
 「プラス改定の大部分は若手医師や医療従事者らの賃上げに充てることになっている。逆に生活習慣病の管理料や処方箋料などの適正化(引き下げ)として盛り込まれたマイナス0.25%(1222億円)は大部分が診療所向けだ」

◆「もう条件闘争だ」6月からの診療報酬改定受け

 焦点は高血圧・糖尿病・脂質異常症の3つの疾患の診療報酬。1日から「特定疾患療養管理料」の対象疾患から外れ、代わりに療養計画書や患者の同意署名が必要な「生活習慣病管理料(Ⅱ)」算定の新しい受け皿となった。
 「もう条件闘争だと思うんですよね」。3月の日医臨時代議員会で、群馬県の代議員が療養計画書への患者署名を問いただした。初めに医師が計画書を作成して患者に渡し、説明して同意署名をもらう。その後は4カ月ごとに再交付する。「業務が煩雑になる」などと反対意見が強い。
 「2回目以降、署名は省略可能です。残念ながら1回目は残りましたが、これまでより、かなり軽減したかなと思っています」
 診療報酬を審議する厚生労働省中央社会保険医療協議会中医協)委員を務める常任理事・長島公之は壇上でそう答えた。署名の簡素化を厚労省側に要望したことがうかがえた。
 「この厳しい診療報酬改定を経験し、医政活動がいかに重要かを、ひしひしと実感しております」

◆「何より来年の参議院選挙への協力を」

 長島は改定の経緯を説明後、代議員らに医政活動を強めるよう呼びかけた。
2025年夏の参院選への出馬を表明する日医の釜萢敏常任理事(中)。左は松本吉郎会長=1月31日、東京・本駒込の日本医師会館で

2025年夏の参院選への出馬を表明する日医の釜萢敏常任理事(中)。左は松本吉郎会長=1月31日、東京・本駒込日本医師会館で

 「都道府県医師会の先生方には今後の日本の医療のために、医師会の組織力強化、日ごろからの地元選出国会議員との関係強化、何より来年の参議院選挙への協力を、ぜひともよろしくお願い申し上げます」
 来年の参院選には、政治団体日本医師連盟の組織内候補として日医常任理事の釜萢敏(かまやちさとし)が立候補する。日医会館には、名前入りのたすきをかけた釜萢の等身大の立て看板やポスターがあり、早くも選挙ムードだ。
 なぜ、医政活動を強化するのか。日医は文書で次のようにコメントした。
 「日本の医療をより良くし、適切な財源を確保していくためには、そのプロセスを担っている政治の場である国会に、日本医師会が推薦する議員を一人でも多く送り込むこと、また多くの国会議員に日本医師会の考えに対する理解を得て、改定率の議論・折衝において、きちんと関与することが必須であると考える」(文中敬称略)

 日本医師連盟 日本医師会政治団体。委員長は歴代の日医会長が兼任する。自見英子・地方創生担当相ら参院に2人の組織内議員がいる。元組織内議員の武見敬三厚生労働相も支援する。自民党の有力スポンサーで、22年は自民党政治資金団体国民政治協会に2億円を献金。ほぼ党所属の国会議員や候補者の側に、総額3億円を超す献金やパーティー券購入を行った。

   ◇
<連載:医療の値段・第3部・明細書を見よう>
 「医療の値段」である診療報酬が6月から改定され、高血圧など3つの生活習慣病の管理料が見直された。患者は全国に約2500万人。診療所やクリニックの収入の柱で「聖域」とされ、過剰な診療も一部で見過ごされてきた。改定で患者や医療現場にどのような影響が出るのかを探った。(杉谷剛が担当します)
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<連載:医療の値段・第1部・環流する票とカネ>(全6回)
<①>麻生太郎氏が「頼まれたから上げた」と語った診療報酬改定
<連載:医療の値段・第2部・診療報酬を巡る攻防>(全7回)
<①>「診療所はもうかっている」調査結果に日本医師会の会長は激怒した