「横浜刑務所で作ったパスタ」が大ヒットした秘密を探った 担当した受刑者に生まれた「変化」とは(2024年6月3日『東京新聞』)

 全国の刑務所で作られ、市販されている「刑務所作業製品」3200点のうち、神奈川県の横須賀刑務支所(横須賀市)の洗濯せっけんと、横浜刑務所(横浜市港南区)のパスタが2023年度の売上高で1、2位となった。大手フリーマーケットサイトでは、定価の数倍で出品されるほどの人気。その秘密を探ろうと、許可を得て製造現場を訪ね、作業する受刑者の思いを聞いた。(米田怜央)
 刑務所作業製品 刑法で定められる刑務作業の一環で生産される製品。食品や日用品のほか、たんすなどの家具や神輿(みこし)も販売されている。2022年度の総売り上げは、税抜き5億9870万円。売り上げの一部は、犯罪被害者への寄付金になる。受刑者には出所後の当面の生活資金という位置付けで作業報奨金が支払われている。
◆「一生懸命に作っているのが伝わる」
 横浜市営地下鉄港南中央駅から歩いて10分ほどにある横浜刑務所。その中の製麺工場で3月上旬、白衣姿の男性受刑者6人が黙々と検品を進めていた。長さ20センチの麺を手に広げ、割れやねじれがないかを確かめ、色分けされた箱に素早く分別していく。
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パスタを検品する受刑者
 厳しいチェック後、刑務所前の常設販売店に並ぶのが「横浜刑務所で作ったパスタ」(300グラム、税込み330円)。1家族3袋までと購入が制限されている。横浜市緑区の70代女性は3袋を手に、「一生懸命作っているのが伝わる。おいしさの背景を想像しています」と笑顔を見せた。
◆口コミで人気が広がり、一時は在庫ゼロに
 昨年4月に発売すると、うどんと同じ製法によるもちもちした食感が口コミで伝わり、年末年始の一時期は在庫がゼロに。通信販売はなく、東北や北関東から買いに来る人もいる。公益財団法人「矯正協会」によると、今年3月までの1年間で3万1500袋を売り、全国2位となる935万円の収益を上げた。刑務作業は時間制限があり、大幅な増産は難しいという。
 「人に感謝されてこなかった。必要とされることが生き方を変えるきっかけになる」
 強盗致傷などの罪で服役中の30代の男性は取材に語った。パスタの試作段階から携わり、見た目や手触りについて意見を出した。服役は2度目だが「考えて作る経験は初めて。出所したら食品関係の仕事に就いてみたい」と思い描く。製麺を監督する作業専門官の小山田勝さんは「社会とのつながりは再犯防止につながる」と力を込める。
◆横須賀刑務支所の洗濯せっけんは全国トップ
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ブルースティックを包装する受刑者(一部画像処理)
 23年度の売り上げが3750万円で全国1位だった洗濯せっけん「ブルースティック」(3本1組、税込み500円)を作る横須賀刑務支所にも足を運んだ。京急久里浜駅からバスで行ける施設は、03年に刑務所として初めて、品質管理の国際規格「ISO9001」を取得している。
 受刑者は工程ごとに何度も傷の有無や異物の混入を確認し、包装が少しでもずれていれば出荷ラインから外していた。年間11万組近く購入されるというヒット商品だけに、作業専門官の吉田大介さんは「人気製品を作っている自覚があり、指導する以上に厳しくチェックしている」と真面目な働きぶりを評価する。
 良いものを作ろうとする原動力は、自分自身が必要とされているという実感だ。昨年から窃盗罪で服役中の男性(30)は取材に語った。「ルールを破った私たちの作るものが求められ、前向きな気持ちになれる。社会に戻って生活したいという思いになる」