年金制度の見直し 将来不安に応える議論を(2024年6月3日『毎日新聞』-「社説」)

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年金改革に向けて議論する社会保障審議会年金部会の委員ら=東京都千代田区の全国都市会館で2023年10月24日、中川友希撮影
 老後の生活を支える公的年金の将来像が問われている。
 2025年の年金改革に向け、厚生労働省の審議会で議論が本格化している。
 公的年金には国民年金と、会社員らが加入する厚生年金がある。国民年金は全国民共通の基礎部分で、厚生年金が所得に応じて上乗せされる「2階建て」構造だ。
 国民年金の給付水準は40年代半ばに今より3割低くなる見通しである。厚生年金より財政基盤が弱く、物価や賃金の低迷の影響を強く受けるからだ。
 主に自営業者を念頭に置いた制度だが、現実には加入者の6割はパート・アルバイトや無職が占める。給付水準の低下に歯止めを掛けられるかが改革の焦点だ。政府は二つの案を検討している。
 一つは、国民年金の保険料納付期間を65歳になるまで5年延長することだ。将来の受給額は年約10万円増える一方、納める保険料は計約100万円の負担増となる。
 厚生年金の保険料には基礎部分も含まれており、60歳以降も働き続ける会社員らに追加負担は生じない。期間延長の意義を丁寧に説明し、理解を得ることが前提だ。
 もう一つは、厚生年金の財源の一部を基礎部分に回すことだ。厚生年金の水準は下がるが、国民年金は底上げされる。低中所得層は底上げ効果の方が大きい。ただ、高所得層は減額となることに留意が必要だ。
 厚労省は、いずれも実施すれば国民年金の大幅減額は回避できるとみる。
 だが、計3兆円程度の国庫負担が新たに生じる。基礎部分の財源の半分は国の税金だからだ。給付総額が膨らめば国の負担は重くなる。増税など財源についての議論を避けては通れない。
 給付の厚い厚生年金の加入者を増やすことも有効だ。アルバイトなど短時間勤務の場合、一定規模以上の企業が対象となる。
 10月には従業員50人超まで適用が広がるが、勤め先の規模によって差が生じるのは不公平だ。負担増となる企業に理解を求めつつ、さらなる拡大を検討すべきだ。
 少子高齢化が進む中、いかに持続可能なセーフティーネット(安全網)を構築するか。青写真を示す改革としなければならない。