年金制度改革 老後の困窮をどう防ぐのか(2024年4月19日『読売新聞』-「社説」)

 公的年金は老後の暮らしを支える基盤であり、高齢者の困窮を防ぐ役割も担っている。生活に必要な年金水準を維持できるよう、適切に制度を見直していくことが大切だ。

 来年の年金制度改革に向けた政府内の議論が本格化している。厚生労働省は今夏、年金財政を点検する財政検証を公表した上で、具体的な改革案をまとめる。

 5年に1度の財政検証は、人口推計や経済見通しに基づき、将来にわたって年金制度を安定的に運営するには、どのような改革が必要かを見定めるものだ。

 少子高齢化で年金を受給する高齢者が増え、保険料を納める現役世代は減少していく。経済や社会の構造の変化を踏まえ、不断に改革していかねばならない。

 焦点となっているのは、国民年金の給付水準の低下をどう防ぐかだ。従来の試算では、現在40歳以下の人が受給することになる20年後には、給付水準が今より3割近く下がる見通しとなっている。

 国民年金の加入者はかつて自営業者が多かったが、近年はパートや無職の人が6割を占めている。加入者、保険料収入とも減少傾向にある。こうした事情から給付水準が大きく下がれば、年金だけでは生活が成り立たなくなる。

 このため厚労省は、現在は20~59歳の40年間となっている保険料の納付期間を5年間延ばし、64歳までとする案を示している。受け取れる年金額を増やす狙いだ。

 だが、新たに毎月約1万7000円の保険料を納めることを負担に感じる人もいるだろう。給付が負担に見合ったものとなるのか、政府は見通しを示すべきだ。

 また、国民年金の財源の半分は国庫負担だ。給付額が増えればその分、追加の財政支出も必要となる。その財源を確保するには、増税の検討も避けられなくなる。

 国民年金の保険料納付率は8割にとどまっている。政府は、老後の備えとしての年金の意義を丁寧に説明するとともに、制度の持続可能性を高めてもらいたい。

 企業などで働く高齢者の厚生年金を減額する「在職老齢年金」の見直しも論点だ。現在は、賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると年金が減額される。

 減額を避けるために就業時間を調整している人は少なくない。この制度が、高齢者の就労意欲に水を差しているとの指摘もある。

 労働力人口の減少は深刻だ。意欲のある高齢者の就労を後押しするため、減額の条件の緩和などの措置を講じていく必要がある。