時の政権が水面下で使う内閣官房報償費(機密費)。国の施策を円滑かつ効果的に推進する経費として国庫から賄われますが、使途は非公表で実態はベールに包まれています。選挙や政治家への餞別など、本来の目的から外れたような使途も取り沙汰されてきました。現状を整理してみます。
Q そもそも機密費って何ですか。
A 国の重要政策の情報収集や関係者との調整を進めるための経費で、内閣の要である官房長官が自身の判断で使います。年間約12億円が国費で賄われ、首相官邸にある官房長官の執務室の金庫などで保管されています。高度な機密性を要するとして、国は使途や支払い先を明らかにしていません。
Q どんなことに使われているの?
A 国内では各層、各団体、各地域の利害が絡む案件、国外で言えば外交やテロ、安全保障の問題が考えられますが、実態は不明です。
Q 具体的な例はないの。
A 最近で言えば、元国会議員の馳浩石川県知事が昨年11月に講演した際、2013年に開催が決定した東京五輪の招致活動で、開催都市決定の投票権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)委員に対し、機密費を用いて贈答品を渡したと発言しました。その後、馳氏は発言を撤回しました。
Q IOC委員への贈答品に使ったのが適当かどうかは別にして、表に出しにくい使途に使うということ?
A そういうこと。国は使途を公表すると、情報提供者や協力者が明らかになり、内閣の情報収集や協力依頼が困難になるとして、使途を非公表にしています。関係者によると、機密費の大部分は、官房長官が自ら管理する「政策推進費」となっています。支出相手から領収書を取らなくてもよく、自由に使うことができます。
Q 本来の目的とは違うものに使われても分からないね。
A 自民党の小渕内閣(1998~99年)で官房長官を務めた野中広務氏(18年死去)が10年に機密費の一端を明らかにしました。野中氏の説明によると、長官自ら月に5千万~7千万円を管理し、そのうちの1千万円を首相に、国会で野党対策に当たる自民党国対委員長や参院幹事長に各500万円程度を渡していました。前長官からの引き継ぎ簿に基づき、政治評論家や野党議員にも配ったと語りました。
Q なぜ野中氏は使途を明かしたのですか。
A 野中氏は「悪癖を直してもらいたいと思い、告白した」と説明していました。当時は政権が自民党から民主党に交代し、機密費の使途公開を検討していたことが影響したのかもしれません。ただ、民主党政権は短命に終わり、使途公開は実現しませんでした。
機密費の性格を考えると使途の即時公開は難しいにしても、一定期間後に公開する仕組みを導入すれば、機密費を使う側、受け取る側に緊張感が高まり、目的外の使用が抑制される効果が期待できます。しかし、12年に自民党が政権に戻って以降、使途公開を検討する動きは進んでいません。
使途非公表の機密費 かつて沖縄の知事選で投入された疑惑も(2024年5月28日『中国新聞』)
ブラックボックスになっている機密費の使途を巡っては、国会議員に配られたり、選挙に流用されたりした疑惑が暴露され、物議をかもしてきた。
共産党は2002年、1991~92年に宮沢内閣が使った機密費を含む支出入を記録したとみられる資料を公表した。
資料は、「金銭出納帳」と表記されたB5判の市販ノートに手書きされていた。野党対策を含むとみられる「国会対策費」が計3574万円と最も多く、自民党だけでなく野党議員の名前が記されていた。