政倫審開催へ 国会の存在意義を示せ(2024年2月27日『山形新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る国民の疑念を解消できるのか。国会の権威がかかっている。その重大さを自覚し、資金が還流された議員は審査に臨まなくてはならない。
衆院は裏金事件に関わる政治的、道義的責任を明らかにするため与野党が政治倫理審査会を開くことで大筋合意した。2018年から5年間で、政治資金収支報告書に総額約5億8千万円の不記載が判明している。政倫審の開催は当然だ。
だが、公開の在り方を巡って議論が対立。与党は「全面非公開」とした従来の方針から譲歩し、国会議員の傍聴に限り容認する案を提示したが、野党は全面公開を求めて折り合わず、引き続き調整することになった。公開の幅を巡って駆け引きをしている場合ではない。大切なのは政倫審で国民への説明責任を果たし、国会の存在意義を示すことだ。
審査の対象になるのは、安倍派の松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長、西村康稔前経済産業相、塩谷立元文部科学相と、二階派の武田良太元総務相の計5人。立憲民主党など野党は派閥からの還流を収支報告書に記載していなかった衆院議員51人の出席を求めたが、自民党は政倫審規程に基づき本人から審査の申し出があったとして5人に絞った。
松野氏らは派閥実務を取り仕切る事務総長などを経験していることも「線引き」の理由であろう。とはいえ、自民党の自己申告形式のアンケートで不記載額が3526万円と最も多かった二階俊博元幹事長、2728万円だった萩生田光一前政調会長が含まれていないのは釈然としない。
政倫審で問われるのは、還流資金の不記載が誰の指示でいつから始まったのかと、その目的や具体的使途である。
安倍派は22年当時、会長だった安倍晋三元首相が還流をやめるといったん決めたという。にもかかわらず、死去後に復活した経緯も明らかにする必要がある。
自民党はアンケートとは別に聞き取り調査結果をまとめている。安倍派の不記載が20年以上前から行われていた可能性に言及したものの、開始時期は特定できなかった。使途は懇親費用や車両購入代など15項目を列挙したのにとどまった。これでは「選挙対策で配った裏金の原資になった」との疑いは晴れまい。
「経理や会計業務は一切関知していなかった」。松野氏は記者会見で事務総長時代を振り返り、そう述べた。松野氏は高木氏らとともに安倍派の実力者「5人組」に名を連ねてきた。そのメンバーの一人で、参院の政倫審で出席が想定される世耕弘成前参院幹事長は「政治資金の管理を秘書に任せきりにしていた」と語る。政倫審でも同様の発言を繰り返すようでは、国会自体を軽んじていると受け止められよう。松野氏らは、資金還流の経緯を安倍派の前身の派閥で会長を務めた森喜朗元首相らに問いただすなり、資金の使途を詳細に調べるなりして政倫審で説明すべきだ。
岸田文雄首相は裏金事件に対し「説明責任のありようを踏まえ、政治責任や処分を考えていく」と表明している。政治への信頼回復のために首相の覚悟を実行しなくてはならない。
政倫審開催へ 全面公開し国民に説明を(2024年2月27日『新潟日報』-「社説」)
裏金の実態を明らかにし、「政治とカネ」に向けられた国民の不信を払拭する場にしなくてはならない。それには審議を完全に公開して、国民が直接説明を聞けるようにする必要がある。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、国会は衆院政治倫理審査会を28、29日に開く方針で26日に幹事会を開いた。
政倫審は原則非公開だが、出席者の同意で公開できる。幹事会では公開か非公開かを巡り協議した。与野党の主張の隔たりが大きく、結論は出なかった。
自民は、「傍聴や撮影録音、会議録の閲覧は完全な非公開」との主張から譲歩し、国会議員の傍聴に限り認める案を示したものの、報道機関を含む全面公開を求める野党側と折り合わなかった。
自民が全面公開を拒むのは、非公開を望む出席議員がいるからだ。しかし、よほど都合が悪いことでもあるのかという疑惑を増幅させる。国会議員の傍聴を認めるだけでは、国民に届きようがない。
政倫審へ出席を申し出たのは、安倍派(清和政策研究会)の松野博一前官房長官ら事務総長経験者と、座長を務めた塩谷立元文部科学相、二階派(志帥会)の事務総長だった武田良太氏ら5人にとどまることも納得しかねる。
野党は、還流した裏金を政治資金収支報告書に記載しなかった現職の衆院議員51人の出席を求め、本県関係議員の高鳥修一氏(比例北陸信越)と細田健一氏(旧新潟2区)も含まれる。
説明責任に背を向けるようなあまりの消極姿勢には、自民若手からも「本気度が感じられない」との声が出ている。
岸田文雄首相は裏金に関わった議員について「政治家として丁寧な説明を尽くすよう促したい」と述べている。指導力が問われる。
自民は先日、議員への聞き取り調査結果を発表した。「主な使途」として15項目を挙げただけで、真相は依然はっきりしない。
裏金の未使用者も調査対象の3割強に上った。未使用なら課税対象になるとし、野党は脱税の疑いがあると追及している。
確定申告が始まっており、国民からは納税への不公平感も出ている。国民の信頼を取り戻すには、還流を受けた議員一人一人が説明責任を果たさねばならない。
自民の裏金事件を強く批判していた立憲民主党でも耳を疑う事態が判明した。梅谷守衆院議員(旧新潟6区)が、選挙区内の有権者に日本酒を配っていた。公選法に違反する可能性がある。
梅谷氏は「軽率だった」と同じ趣旨の回答を繰り返すだけで、具体的な実態を説明していない。
これでは他党を追及する資格はない。納得のいく説明が不可欠だ。与野党を問わず、議員は国民の厳しい目が向けられていることを忘れてはならない。
【政倫審の開催】公開で不信と向き合え(2024年2月27日『高知新聞』-「社説」)
不明朗な政治資金の在り方に世論は批判的だ。不透明感が強まる対応では逆効果となる。政治不信との向き合い方が試されている。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会の開催が議論されている。開催されると約15年ぶりとなる。
野党は、派閥からの還流を政治資金収支報告書に記載しなかった現職82人のうち全ての衆院議員51人に政倫審への出席を求めている。だが出席を申し出たのは、派閥の解散方針を決定した安倍派と二階派の計5人にとどまる。
5人はいずれも非公開での審査を求め、野党は公開を要求して対立している。岸田文雄首相は、「しっかりと説明責任を果たしてもらいたい」と述べる一方、公開の是非は規程に基づき国会が判断することだと繰り返してきた。原則非公開で、公開は本人同意が必要だが、説明責任を果たすとの常とう句を重ねるだけでは逃げの姿勢に見られる。これでは最低水準の内閣支持率を反転させる力は乏しい。
東京地検特捜部は衆院議員、池田佳隆被告や会計責任者ら計10人を立件し、捜査は事実上終結した。政治資金収支報告書への虚偽記入の罪を問い、派閥の実務を取り仕切った幹部は不問に付した。
自民は政倫審の開催に応じることで2024年度予算案を週内に衆院通過させ、3月中の成立を確実としたい意向だ。予算に「空白期間」が生じて影響が出る事態を避けたいのは分かるが、それと裏金事件を結びつけるのは無理がある。
裏金の使途をはじめ、還流が誰の指示で始まり継続されたかなど実態解明は進んでいない。安倍派ではパーティー券の販売ノルマ超過分を議員側に還流する仕組みが定着していた。22年4月には安倍晋三元首相の意向で取りやめを決定したが、安倍氏の急逝を受け幹部の協議で中止を撤回したとされる。不適切な行為がなぜ必要とされたのかを明確にする必要がある。
自民の調査報告書は、還流資金の使途に会合費や研修会の施設経費、懇親費用などを挙げる。だが、具体的な金額や使用日時にはほとんど触れられていない。これでは政治活動費以外の私的流用を否定しても、その通りには受け入れられるはずはない。十分な説明が不可欠だ。
還流金の一部は課税対象になるのではないかという疑念も向けられる。政治家が納税を軽視していると見られては情けない。確定申告シーズンでもあり厳しい視線があることを強く意識して、厳格な対応を進めることが重要だ。
解明を再発防止につなげる必要がある。政治責任の明確化と政治資金の透明化が欠かせない。議員にも連帯責任を負わせる「連座制」の導入や政治資金パーティーの全面禁止などが取り上げられる。政治資金規正法の限界がたびたび露呈する。修正しても行き届いていないのが現状だ。そこにも不信が漂うことを真剣に受け止めた対応が求められる。
政倫審平行線 公開嫌なら議員辞職を(2024年2月27日『沖縄タイムス』-「社説」)
派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る衆院の政治倫理審査会の開催方法について自民党が公開を拒んでいる。全面公開を求める野党との協議は折り合いがつかず、いまだに合意に至っていない。
疑惑のある議員を審査する政倫審はロッキード事件をきっかけに1985年、衆参両院に設置された。今回開催されれば衆院では2009年以来15年ぶりとなる。
原則非公開だが、対象となる議員本人が応じれば公開できる。過去に非公開だったのは1996年の献金問題で出席した加藤紘一氏(自民)だけ。2002年の田中真紀子氏(無所属)や、06年の伊藤公介氏(自民)の時は議員と報道関係者が傍聴した。
岸田文雄首相は26日の衆院予算委員会で「過去の実態を見ると対応はさまざま」とし、公開については「国会で判断するもの」と正面から答えようとしなかった。
東京地検特捜部は今回の裏金事件で、すでに国会議員3人と複数の会計責任者らを立件している。
内閣支持率は今月24・5%まで落ち込み岸田内閣として最低水準に。国民の政治不信はかつてないほどに高まっている。
予算委の後、政倫審幹事会で自民側は当初の「全面非公開」から譲歩する形で国会議員の傍聴に限り容認する案を提示したが後ろ向きと言わざるを得ない。
岸田首相は小出しの対応をやめ、党総裁として全面公開を指示すべきだ。国民の前でしっかりと説明責任を果たす機会にするべきである。
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裏金問題での自民の対応はことごとく及び腰だ。
政倫審への出席予定者は当初、安倍派座長だった塩谷立氏と二階派事務総長の武田良太氏だけ。野党が反発したため、松野博一、西村康稔、高木毅の各氏を追加し計5人となった経緯がある。
しかし、自民が所属国会議員に実施したアンケート調査では18~22年の5年間で85人に不記載があり、そのうち32人が資金還流を認識していた。
巨額の不記載が判明している二階俊博元幹事長や萩生田光一前政調会長をはじめ、関わった全ての議員の説明責任が求められる。
与野党は参院の政倫審を開くことも決めた。参院政倫審は設置以来初めてとなる。
野党は不記載のあった参院議員32人にも出席を求めており、不正の再発防止へ法改正などの議論を深めるためにも衆参での真相究明が求められる。
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今月から始まった確定申告を受け、「確定申告ボイコット」の呼びかけがSNSで拡散している。
裏金疑惑の議員らの納税について、自民の森山裕総務会長が「納税はあり得ない」と報じられたことが要因とされており、政治資金問題に国民の批判が集中している。
仮に政倫審でものらりくらりと説明を避けるようなら、疑惑の解明を拒否したとみられても仕方あるまい。
公開を拒み、不正にけじめをつけられないようなら、議員を辞職すべきだ。