家族を奪われたり、心身に傷を負わされたりした犯罪被害者の苦しみは計り知れない。
遺族や障害が残った人などに支払われる給付金の支給額が、来月にも引き上げられる予定だ。
精神的ショックから、働けなくなるケースが目立つ。長期の療養を余儀なくされることもある。給付制度は、被害者の生活の支えになるものだ。
だが、2022年度に遺族に支給された給付金は平均743万円にとどまる。交通死亡事故で、平均約2500万円が支払われる自賠責保険の水準を下回る。
犯罪被害者の団体から引き上げを求める声が上がり、政府は昨年6月、見直しを決定していた。
政令改正により、収入のない20歳未満の子を亡くした親の場合、遺族給付金は320万円から1060万円に増える見通しだ。
生活もままならない被害者の窮状を考えれば一歩前進だが、まだ不十分である。
亡くなった人の収入や年齢、扶養家族の人数によって、支給額が決まる枠組みは変わらない。無職や子どもの場合は低額になる。
被害に遭っていなければ得られたはずの逸失利益なども考慮されていない。
民事裁判で加害者に損害賠償を求めても、資力がないため、支払われないことが多い。被害者の団体は、国が賠償金を立て替え、加害者から回収する制度の創設を求めている。
犯罪被害者の救済に積極的に取り組む欧米の例を参考にして、経済的支援の拡充に向けた検討を続けるべきだ。
被害者の支援策は、他にも進みつつある。
公費負担で、弁護士が事件直後から継続してサポートできるようにするための法整備が、今国会でなされた。殺人事件や性犯罪の被害者らを対象に、被害届の作成、加害者との示談交渉、提訴などに当たる。
犯罪の被害に遭う可能性は誰にでもある。被害者を社会で支える仕組みの充実が不可欠だ。