欧州議会選 ロシアは介入をやめよ(2024年5月21日『東京新聞』-「社説」)

 5年に1度の欧州議会選を巡りロシアが欧州議員への影響工作や偽情報の拡散など選挙介入を活発化させている。ウクライナ支援など欧州の政策決定に深刻な影響を及ぼしかねない。ロシアは介入を直ちにやめるべきだ。
 欧州議会選(定数720)は欧州連合EU)の立法機関の各国代表を決めるもので6月6~9日に投票が行われる。
 プーチン政権は2014年のウクライナ南部クリミア半島併合以降、フランスの「国民連合」など親ロ的な極右政党への支援を水面下で強めてきた。EUの結束に亀裂を生じさせ、対ロ制裁を緩和させようとの思惑からだ。
 ロシアは22年のウクライナ侵攻後、西欧型の民主主義を敵視して「伝統的な価値観」重視を強めている。EUの価値観に懐疑的な欧州の極右政党と親和性が高い。
 チェコ政府は、ロシアが管理するネットメディアが、ウクライナ支援に懐疑的な極右政治家に資金提供するなど、欧州全域で影響力を行使したと発表した。
 この事件を巡り、ドイツ検察当局は極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の欧州議会選候補者の事務所を家宅捜索した。
 AfDの支持率は最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぎ、欧州議会選ではAfDや「国民連合」などがつくる極右的な政治会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」の伸長も予想される。
 ロシアに近い極右政党が支持を集める背景には、物価高や移民流入など政治の現状に対する不満があるが、極右政党がウクライナ支援に懐疑的であることも懸念される。欧州議会選でIDが躍進すればEUによる大規模支援継続に影響が出る恐れは否定できない。
 欧州議会は、選挙に影響を及ぼそうとしたとしてロシアを非難。EUに対して追加の対ロ制裁を含めて敏速に対応するよう求める決議を採択した。一連の対応は、危機感の表れでもあろう。
 ロシアや中国など権威主義諸国は民主主義の弱体化を狙って、水面下で政治工作や偽情報などを用いた攻撃的な活動を世界各地で行っている。
 権威主義と欧米中心の民主主義との対立が深まる中、欧州議会選は民主主義の行方を占う試金石でもある。選挙結果に加えてロシア介入の実態と影響を注視したい。