米分断緩和へ大統領選公正に(2024年5月5日『日本経済新聞』-「社説」)

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トランプ前米大統領(左)とバイデン大統領(ロイター=共同)

 11月5日投開票の米大統領選まで半年となった。健全な民主主義に不可欠な公正で透明性の高い選挙を実施できるか。今回は大きな不安がつきまとう。

 投票権を制限する動きが相次いでいるのはその一例だ。米シンクタンクのブレナン・センターによると、2023年だけで全米50州中14州でそうした法律が新たに成立した。郵便投票の用紙を得る際の身分証明を厳しくしたり、投票箱を減らしたりする内容が多い。

 これらの措置の大半は共和党が多数派を占める州議会が導入を進めた。大義名分は不正防止だ。経済的な理由で運転免許証などを持てない黒人らマイノリティー(少数派)の投票機会を損なうとして、民主党は撤回を求めている。

 民主党が主導権を握る州議会では、これと反対に投票を容易にする法律をつくったケースもある。違法な投票を防ぐのは当然だ。しかし、幅広い有権者に一票を投じる機会を確保する取り組みと両立させなければならない。

 トランプ前大統領は20年大統領選の結果を不正があったとして認めていない。共和党がそれを理由に投票権を制限するのは筋違いだ。トランプ氏の荒唐無稽な訴えが、連邦議会襲撃事件を招いた事実を忘れてはならない。

 気がかりなのは、同じような事態が今回も起きかねない点だ。次の大統領選の結果を巡って暴動が起きうると予測する米国民がほぼ半数に達する世論調査もある。

 そんな展開になれば、中国やロシアの思うつぼだ。米民主主義の機能不全を中ロが国際社会で吹聴し、米国の求心力が低下して国際秩序がさらに不安定になる。こんなことを許すわけにはいかない。

 公正な選挙を通じ、結果がでれば双方が受け入れる。民主主義の盟主である米国でこれを当然視できないのは心もとない。先に成立したウクライナ支援の法律のように民主、共和両党に協力の余地はある。選挙を前に対立が激しくなるのはやむを得ないが、分断を深めない努力を双方に期待したい。