上川発言は失言か、メディアの曲解か(2024年5月21日『産経新聞』-「産経抄」)

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静岡市で演説する上川外相
産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」。平成19年1月、当時の柳沢伯夫厚生労働相の発言が総すかんを食った。確かに少子化問題を解説するのに女性を機械にたとえたとあっては弁護のしようもなかった。
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(やなぎさわ はくお、1935年8月18日 - )
 同じ静岡県出身の上川陽子外相が自身の発言を撤回する事態に追い込まれている。「うまずして何が女性か」。小欄は新聞の見出しを見て「産む機械」騒動を思い出した。
 問題の発言は静岡県知事選の応援のために静岡市内で行った演説の中で出た。とはいえYouTubeで実際に演説を聞いてみるとなんのことはない。あくまで自民党推薦候補を県知事に押し上げ、新しい静岡県を誕生させるという趣旨である。女性が大半を占める聴衆は拍手を送ったという。
 上川氏自身女性パワーが国政に送り出してくれた、との思いも強いのだろう。ただ日本語には「うみの父」という言葉もある。男性にも新知事を「うむ」運動への参加をうながしていたら炎上は免れたかもしれない。「子供をうまない女性は女性ではない」。野党もこんな曲解をひねり出せなかった。
 上川氏といえば今年1月には、自民党麻生太郎副総裁の失言騒動に巻き込まれている。麻生氏は上川氏の外交手腕を称(たた)えつつも「おばさん」呼ばわりや容姿への言及が批判を浴びた。一方「どのような声もありがたく受け止めている」と大人の対応をとった上川氏の好感度が上がり、首相候補のランキングが急上昇する結果となった。
 政治家の言葉は時に思わぬ波紋を呼ぶ。残念ながら発言を都合よく切り取る一部メディアの悪弊もなくならない。上川氏にとって今回の発言撤回は、大きな教訓になったはずだ。
 
柳沢大臣による「産む機械」発言の全文(録音テープより)
「今の女性が子供を一生の間にたくさん、あの、大体、この人口統計学ではですね、女性は15歳から50歳までが、まあ出産をしてくださる年齢なんですが、15歳から50歳の人の数を勘定すると、もう大体分かるわけですね。それ以外産まれようがない。急激に男が産むことはできないわけですから。特に今度我々が考えている2030年ということになりますと、その2030年に、例えば、まあ二十歳になる人を考えるとですね、今いくつ、もう7、8歳になっていなきゃいけないということなんです。生まれちゃってるんですよ、もう。30年のときに二十歳で頑張って産むぞってやってくれる人は。そういうことで、あとはじゃあ、産む機械っちゃあなんだけど、装置がもう数が決まっちゃったと。機械の数・装置の数っちゃあなんだかもしれないけれども、そういう決まっちゃったということになると、後は一つの、ま、装置って言ってごめんなさいね。別に、この産む役目の人が一人頭で頑張ってもらうしかないんですよね、みなさん」(TBS『みのもんたの朝ズバッ』2007年1月29日放送)

 

 

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