偽造マイナカードを使ったなりすましで、スマホの乗っ取り被害にあった風間さん=東京都世田谷区で
◆自治体議員だけに氏名や生年月日は公表情報
「やられた」。風間さんは直感した。いつも画面上に表示されているアンテナマークが全て消え、電話など電波の必要な操作が何もできない。駆け込んだ携帯ショップで調べてもらうと、予想どおり何者かに乗っ取られていた。
「僕を名乗る誰かが名古屋市内で機種変更手続きをして、携帯機能も情報も、全部そっちに移った」。店から本人確認はマイナカードの目視だったと聞いたが、自分のカードはずっと家にある。「免許証の偽造は知っていたが『マイナカードで来たか』と」。職業柄、氏名や生年月日といった個人情報を公表しており、偽造の際に悪用されたとみられる。スマホに入れていた決済アプリなどを悪用され、タクシー代などに計10万円余が使われた。
乗っ取りを行った人物が手続き時に記入した書類では、本人署名が「風間」ではなく「風門」と誤っていたが携帯会社の店舗で気付かれることはなかった。警察にも相談したが「今回のケースでは、携帯会社が詐欺の被害者」と言われ、被害届は出せていない。
なりすまし犯による署名。名字が全て「風門」になっているなど明らかな不審点もあったが、見落とされた
◆「あんなに簡単に偽造できるものを…」
事案を受けて河野太郎デジタル相は今月10日、カードの真贋(しんがん)を見分ける方法は複数あると指摘。ICチップによる読み取りを促すなど再発防止とともに、「現場の本人確認がしっかりしていれば防げた」などと苦言を呈した。
風間さんは「携帯会社にはもっと慎重に見極めてほしかった」とするものの、「あんなに簡単に偽造できるものを本人確認書類として認めていいのか」と国の方針にも問題があると強調する。ICチップによる読み取り強化については「民間事業者による読み取りが進めば進むほど、情報流出が増えるのではないか」と懸念を示した。
◆河野氏「必要なことは警察から聞く」 責任に言及せず
河野太郎デジタル相は17日のオンライン会見で、マイナカードの偽造カードによる詐欺が相次いでいることについて、「必要なことは警察から聞こうと思う」と述べ、再発防止策などのために一定の情報収集を行う意向を示した。
一方、マイナンバーカードと健康保険証が一体となった「マイナ保険証」の利用率が3月に5.47%、4月も6.56%と低迷しているものの今年12月2日に紙の保険証を廃止する予定について「変更はない」と述べた。
◆「カードありきで無理に広げてきた結果」
山口大経済学部の立山紘毅教授(憲法・情報法)の話 さまざまな機能をマイナカードに負わせる以上、いくら対策をしても偽造、詐取しようとする者は今後も必ず出てくる。マイナンバー制度自体を否定するつもりはないが、それは行政事務の効率化という限られた世界での話。ただ、15日に会計検査院が公表した報告では、行政事務の連携にも十分に使われていないことが明らかになった。カードありきで無理に広げてきた結果、「市民や事業者がマイナカードに何を求めているのか」が置き去りになっている。政府はまず、カードに対してどんなニーズがあるかを把握し、あらゆる機能をマイナカードに集約する方針を見直すべきだ。