熱中症の特別警戒 災害と捉え命守る行動を(2024年5月18日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ
暑さをしのぐ避難施設「クーリングシェルター」を示すマークの一例
 近年の酷暑は命にかかわる災害とさえ言える。強い危機感を持って対処する必要がある。
 前例のない暑さが予想される場合に出される「熱中症特別警戒アラート」の運用が4月から始まった。気温や湿度などから算出される「暑さ指数」の予測値が一定の水準を超えると、環境省都道府県単位で発表する。
 改正気候変動適応法に基づく制度で、従来の「警戒アラート」より一段上の注意喚起と位置づけられている。
 学校や企業のほか、イベント主催者らに十分な対策を取るよう求める。対応が難しい場合には在宅勤務などへの変更、イベントの中止・延期を検討するよう促す。
 過去のデータで水準に達した日はないが、油断は禁物だ。
キャプチャ2
今年も暑くなりそう。ゴールデンウイークも初夏のような陽気を迎えた=東京・明治神宮外苑で2024年4月28日、手塚耕一郎撮影
 国内の年平均気温は上昇傾向にあり、1898年の統計開始以降、ここ5年がトップ5を占めている。熱中症が原因で亡くなった人は毎年のように1000人を超え、豪雨や地震など自然災害による犠牲者を上回る年も多い。
 注意したいのが、暑さやのどの渇きを感じにくい高齢者だ。昨年夏、熱中症による東京23区での死者164人のうち9割弱が65歳以上だった。エアコンを使用していないケースが目立つ。単身世帯が増えていることも背景にある。
 車の中に取り残された乳幼児が亡くなる事故も後を絶たない。周りの人や遠方の家族らへの目配りを心がけたい。
 自治体には、アラートが出されたことを防災無線やメール配信サービスなどを駆使し、住民に確実に届けることが求められる。
 冷房を備え、待機スペースが十分ある公民館やショッピングセンターなどが「クーリングシェルター」に指定され、住民らに開放される。災害時の避難所のような位置づけであり、所在地や開放時間などの情報が広く周知されなければならない。
 今年もすでに各地で真夏日が観測されている。7月までの3カ月予報では全国的に気温は平年より高くなるという。
 熱中症は、エアコンの利用など一人一人が適切に行動すれば防ぐことができる。新たな制度が始まったことを契機に、官民で十分な備えを講じるべきだ。