熱中症「特別警戒」 発令時の対応策を万全に(2024年4月28日『産経新聞』-「主張」)

キャプチャ
東京都心は猛暑日となり、 熱中症警戒アラートが発表された
 
 災害級の熱波が襲ったとき、熱中症対策を一段と強めるよう政府が呼びかける「熱中症特別警戒アラート」の運用が始まった。
 従来の警戒アラートよりも上位に位置づけられ、健康に重大な被害が及ぶ恐れがある事態を想定している。
気温や湿度などによる「暑さ指数」が都道府県内の全地点で35に達すると予測される際に環境省が発表し、国民や自治体に最大限の予防行動を促す。
 近年、記録的な酷暑が列島各地でみられ、熱中症による死亡はほぼ毎年1千人を超える。新制度の周知や発令時の注意喚起を徹底し、効果的な運用に万全を期さなくてはならない。
 気候変動適応法が令和5年に改正され、特別警戒アラート新設が決まった。エアコンなどで暑さを回避する手段に乏しい熱中症弱者などを守るためだ。
 市町村長はエアコンのある公民館や図書館、ショッピングセンターなどを暑熱避難施設(クーリングシェルター)に事前指定できる。特別警戒アラート発表時に一般に開放する。
 発令時には熱中症リスクが高い高齢者や乳幼児に注意を払うべきはもちろん、戸外での活動予定を変更・延期したり、不要不急の外出を控えたりすることも必要だ。さらにエアコンなどを利用できない人はシェルターを積極的に活用してほしい。
 気がかりなのは、自治体によるシェルター整備が十分に進んでいるかどうかだ。環境省は今年1月、自治体のシェルター設置率を71%とする調査結果を公表したが、これを額面通りに受け取るわけにはいかない。
 全国の市町村などにシェルター設置状況を問うたこの調査で回答の開示に同意した自治体は約1割しかなく、設置率71%もこの自治体内の数字にすぎないからだ。実際には未回答だったり、回答開示を拒んだりした9割の自治体の多くが未設置の可能性もあるのではないか。
 シェルターは設置して住民に周知しなければ機能しない。政府は熱中症死亡の半減を目指すとしているが、正確な設置率も明示できないようでは目標達成への覚悟にも疑問符がつく。
 昨夏は気象庁が統計を取り始めて以来、平均気温が最も高い夏だった。今夏も全国的に気温が高くなる可能性がある。国や自治体は緊張感をもって熱中症に備えなくてはならない。