円相場が一時、1ドル=160円台に急落したニュースを伝えるモニター=東京都中央区で4月29日、渡部直樹撮影
長引く物価高が国民生活を圧迫している状況が鮮明となった。
岸田文雄首相は賃上げが物価高を上回る「経済の好循環」を目標に掲げ、「株価など明るい兆しが随所に出てきた」と強調している。だが国民の実感とは程遠い。
物価上昇を差し引いた実質賃金は、3月まで24カ月連続のマイナスに沈んでいる。春闘での賃上げと6月から始まる定額減税の効果が表れ、夏にはプラスに転じると言われてきたが、年末以降に遠のくとの見方も出てきた。
物価高を加速させているのは、歴史的な円安である。4月には一時、1ドル=160円台と34年ぶりの水準に下落した。その影響は大きく、5月の飲食料品の平均値上げ率は30%超と過去2年で最高になったという。
マイナス金利政策が解除されたが、円売りには歯止めが掛からなかった。政府・日銀は円買いの市場介入を実施したと言われる。与党には物価高対策として追加減税を求める声がある。だが、いずれもその場しのぎにしかならない。
異次元の金融緩和を柱としたアベノミクス以来、円安頼みの政策が続いてきた。輸出産業を中心に潤ったが、国民には恩恵が広がらず、むしろ暮らしへの弊害が目立っている。問題を直視し、抜本的な対策を講じる必要がある。
「日本売り」を招いている背景には、低調な内需という経済の構造的な弱さがあると指摘される。賃上げを拡充して、消費の底上げを図ることが欠かせない。
人への投資を強化すれば、生産性向上も見込める。日本経済が活気を取り戻す契機となるはずだ。