物価高とマイナス成長 円安の弊害を直視せねば(2024年5月18日『毎日新聞』-「社説」)

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円相場が一時、1ドル=160円台に急落したニュースを伝えるモニター=東京都中央区で4月29日、渡部直樹撮影
 
 長引く物価高が国民生活を圧迫している状況が鮮明となった。
 今年1~3月期の実質国内総生産GDP)は、年換算の成長率がマイナス2%に落ち込んだ。訪日観光客の増加などコロナ禍から回復する動きが一部で見られるが、景気全体は停滞したままだ。
 GDPの半分以上を占める個人消費の不振が大きい。減少は4四半期連続となり、リーマン・ショック以来という異例の事態だ。
 岸田文雄首相は賃上げが物価高を上回る「経済の好循環」を目標に掲げ、「株価など明るい兆しが随所に出てきた」と強調している。だが国民の実感とは程遠い。
 物価上昇を差し引いた実質賃金は、3月まで24カ月連続のマイナスに沈んでいる。春闘での賃上げと6月から始まる定額減税の効果が表れ、夏にはプラスに転じると言われてきたが、年末以降に遠のくとの見方も出てきた。
 物価高を加速させているのは、歴史的な円安である。4月には一時、1ドル=160円台と34年ぶりの水準に下落した。その影響は大きく、5月の飲食料品の平均値上げ率は30%超と過去2年で最高になったという。
 マイナス金利政策が解除されたが、円売りには歯止めが掛からなかった。政府・日銀は円買いの市場介入を実施したと言われる。与党には物価高対策として追加減税を求める声がある。だが、いずれもその場しのぎにしかならない。
 異次元の金融緩和を柱としたアベノミクス以来、円安頼みの政策が続いてきた。輸出産業を中心に潤ったが、国民には恩恵が広がらず、むしろ暮らしへの弊害が目立っている。問題を直視し、抜本的な対策を講じる必要がある。
 「日本売り」を招いている背景には、低調な内需という経済の構造的な弱さがあると指摘される。賃上げを拡充して、消費の底上げを図ることが欠かせない。
 雇用の7割を占める中小企業の賃上げはまだ低い水準にとどまる。政府は最低賃金の引き上げを加速し、非正規労働者の処遇改善を促進しなければならない。大企業は好調な収益をより積極的に還元すべきである。
 人への投資を強化すれば、生産性向上も見込める。日本経済が活気を取り戻す契機となるはずだ。