消費回復へ賃上げの持続力高める改革を(2024年5月17日『日本経済新聞』-「社説」)
長引く物価高で家計の節約志向が強まっている(スーパーの売り場)
長引く物価高が家計の節約志向を強め、景気の先行きを不透明にしている。内閣府が16日発表した2024年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比の年率換算で2.0%減り、2四半期ぶりのマイナス成長となった。
とくに個人消費は前期比0.7%減と4四半期連続で減少した。消費回復には物価上昇を上回る勢いで賃金が増える必要があるが、最近の円安で実現が遅れそうな気配だ。消費動向を注視するとともに、賃上げの持続へ生産性を向上させる改革を急ぐ必要がある。
自動車の生産減は一時的な現象であり、今回のマイナス成長を過度に悲観すべきではないだろう。だが内需の柱である個人消費の不振は無視できない。4四半期連続のマイナスは世界に金融危機が広がった08〜09年以来だ。
23年度を通してみると実質成長率は1.2%と3年連続でプラス成長を保ち、名目GDPは前年度比5.3%増の597兆円と600兆円の大台に迫った。だが昨年夏以降は名目・実質ともに成長の勢いがはっきりと鈍っている。
1〜3月期は働く人たちの所得の総額である雇用者報酬が名目では前年同期比で2.1%増えたのに、実質だと1.0%減った。賃金上昇が物価高に追いつかず、実質賃金の目減りが続く。
今年の春季労使交渉での大幅な賃上げは夏場にかけて実際の給与に反映される。だが円安や政府の物価高対策の縮小が物価をさらに押し上げれば、実質賃金のプラス転換は遅れる。消費の下振れリスクに目配りする必要がある。
米国では15日発表の4月の消費者物価指数でしつこいインフレに減速の兆しがみえ、急激な円安・ドル高に歯止めがかかった。それでも政府・日銀は円安進行への警戒を緩めるべきではない。
より重要なのは、中小企業を含めた積極的な賃上げが持続するよう、生産性を高める民間の挑戦を最大限に引き出す取り組みだ。最低賃金の継続的な引き上げに向けて、政府は産業育成策や社会保障制度を見直してほしい。
人手不足が成長の制約要因にもなるなか、貴重な人材が成長分野に移りやすくする抜本改革こそが消費拡大への王道である。
物価高の中、値下げキャンペーンを行う都内のスーパーマーケット=16日午後、東京都中央区(相川直輝撮影)
マイナス成長は2四半期ぶりだ。新型コロナ禍からの回復過程にあるとはいえ、GDPの大層をなす消費が盛り上がらなければ、経済は一進一退から抜け出せまい。日本経済は今、持続的な成長を果たせるかどうかの岐路にある。
急激な円安が輸入物価の上昇を通じて家計や企業活動に及ぼす悪影響には引き続き警戒が必要だ。一方で今後は、春闘でみられた賃上げの効果も本格化しよう。物価高に賃上げが追い付かない状況がなくなるかどうかが消費回復のカギを握る。
重要なのは、企業の前向きな経営で民需主導の力強い景気回復を実現することだ。中小企業を含めて賃上げを確実に果たすべきはもちろん、収益増をもたらす設備投資や人への投資も求められる。そのための歩みをさらに強めるべきである。
1~3月期の個人消費は前期比0・7%減だった。トヨタ自動車グループの認証不正に伴う生産停止で新車購入が減る特殊要因もあったが、物価高で実質賃金が3月まで24カ月連続でマイナスとなり、購買力が低下していることはやはり大きい。
企業には1~3月期に0・8%減だった設備投資も積極化してほしい。上場企業の令和6年3月期決算では、円安を追い風に業績を大幅に伸ばす企業が相次いでいる。海外で稼ぐ製造業だけでなく、インバウンド(訪日外国人客)需要の高まりで恩恵を受ける企業も多い。
生産性を高めたり、成長分野を育成したりするための投資は中長期的な経営基盤の安定化に資する。これらを通じて企業が稼ぐ力を高め、経済の好循環につなげていくことが重要だ。