患者への虐待 弱みにつけ込む卑劣な行為だ(2024年5月15日『読売新聞』-「社説」)

 病院や福祉施設で、職員による患者や入所者への虐待が後を絶たない。現場が抱えている問題点を洗い出し、弱者に対する卑劣な行為を食い止めなければならない。
 福岡県大牟田市国立病院機構大牟田病院で、複数の男性職員が入院中の女性や男性に対し、性的虐待が疑われる行為をしていたことがわかった。昨年12月に患者の1人が被害を訴えたため、病院が調査して発覚したという。
 患者は、全身の筋肉が衰える難病「筋ジストロフィー」など重い障害があり、自分で体を動かせなかったり、意思疎通が困難だったりする人たちだ。職員と患者が1対1になる時や夜間に、胸や陰部を触るといった行為があった。
 病院から障害者虐待防止法に基づく通報を受けた自治体が現在、調査を進めているが、すでに職員2人の行為が虐待と認定された。全容を解明し、関係者を厳正に処分することが重要だ。
 必要に応じて、職員らの刑事告発も検討すべきだろう。
 この病院では、複数の職員が多くの入院患者に虐待を繰り返していた。異常な状況である。病院内に患者を軽んじるような風潮が 蔓延まんえん していたのではないか。
 職員への研修を拡充することが重要だ。入浴の介助やおむつ交換は同性の職員が担当し、患者と職員が2人きりにならないようチームでケアするといった体制整備を徹底してほしい。
 茨城県東海村の障害者施設「第二幸の実園」では、職員による入所者への暴力などの虐待が続いていたことが発覚した。県は今後、障害者総合支援法に基づく行政処分を科すという。
 障害者施設の職員による虐待は全国で年間900件を超えている。極めて深刻な状況だ。
 精神科病院での虐待も目立つ。東京都八王子市の滝山病院では昨年、看護師による入院患者への暴行事件が発覚した。
 障害の重い人は被害を伝えにくいうえ、本人も家族も、病院や施設には世話になっているという遠慮が生じがちだ。介助者側には、立場に乗じて相手を見下すような意識が生じかねない。
 虐待が明るみに出たケースは、氷山の一角ではないか。本人や家族が被害を訴えやすい相談窓口の整備を急ぎたい。
 障害や精神疾患のある人への虐待を発見した人には、障害者虐待防止法などで自治体への通報が義務づけられている。こうした制度を周知することも大切だ。