障害者ホームの不正 福祉食い物にした虐待だ(2024年6月29日『毎日新聞』-「社説」)

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恵が運営するグループホームで、スタッフが記録する利用者の生活記録。実際には働いていないスタッフのハンコが押された形跡があった=名古屋市中村区で2024年6月25日、兵藤公治撮影(画像の一部を加工しています)
恵が運営するグループホームで、スタッフが記録する利用者の生活記録。実際には働いていないスタッフのハンコが押された形跡があった=名古屋市中村区で2024年6月25日、兵藤公治撮影(画像の一部を加工しています)

 障害者への虐待に他ならない。福祉を食い物にした事業者に行政が「退場」を命じたのは当然だ。

 障害者グループホームの運営事業者「恵(めぐみ)」が利用者から食材費を過大徴収していたなどとして、愛知県と名古屋市が一部施設の指定を取り消す処分を出した。

 厚生労働省は組織的な不正を認定し「連座制」の適用を決めた。全国約100カ所の施設は8月末以降、順次運営できなくなる。

恵が運営する全国の障害者グループホーム
恵が運営する全国の障害者グループホーム

 施設では十分な食事が提供されず、痩せ細る利用者もいた。実費として徴収した食材費を本部が集め、その一部しか施設に渡していなかったためだ。過大請求額は全国で約3億円に上る。県は「経済的虐待」と判断した。

 また、勤務実態のない職員が働いていたように装うなどして、サービス報酬を不正に得ていたことも認定された。

 金もうけを優先し、障害者の人権をないがしろにする行為は、言語道断だ。

恵が運営するグループホームの行政処分発表で「信頼を裏切り、大きな憤りを感じる」と述べる大村秀章・愛知県知事=愛知県庁で2024年6月26日午後2時2分、荒川基従撮影
恵が運営するグループホーム行政処分発表で「信頼を裏切り、大きな憤りを感じる」と述べる大村秀章・愛知県知事=愛知県庁で2024年6月26日午後2時2分、荒川基従撮影

 グループホームは、知的障害者らが介護や生活援助を受けながら、家庭に近い環境で共同生活する場だ。国は障害者の暮らしの拠点を、大規模な入所施設から地域へ移そうとしている。その受け皿として整備が進んだ。

 恵は2018年、国がグループホームに「日中サービス支援型」という類型を新設したのを機に、事業参入した。重度障害や高齢の人を受け入れるため報酬が手厚く、収益性が高いことに着目したとみられる。短期間で12都県に展開し、今は全国にある同種施設の1割近くを占める。

 企業などの新規参入は、障害者の暮らしの地域移行に一定の役割を果たしている。だが、運営状況の監視などサービスの質を担保するための仕組みは十分に機能しているのか、検証が求められる。

 行政がまず取り組むべきことは、恵の施設で暮らす約1700人の生活の場の確保だ。県内に26施設が集中する愛知県は、転居先が見つからなければ県の施設での一時受け入れを検討するという。

 恵には、今後の方針を利用者や家族に対して早急に説明することが求められる。事業譲渡には広域的な調整が必要になる場合もある。国と自治体は、事業者任せにせず適切に対応すべきだ。