軍事転用の懸念 企業が萎縮しない輸出規制に(2024年5月15日『読売新聞』-「社説」)

 ロシアなどが、幅広く使える 汎用はんよう 品を軍事目的へと転用することに、懸念が高まっている。政府は、企業の理解を得ながら輸出規制を強化してもらいたい。
 経済産業省産業構造審議会は、軍事転用のリスクが高い汎用品の輸出規制を強化する対策について、報告書を公表した。
 ウクライナを侵略したロシアは、輸入した半導体やカメラ、模型用エンジンといった汎用品を、ドローン(小型無人機)や衛星通信装置など軍事向けに転用しているとされる。ロシアが優勢な戦局に大きな影響を及ぼしている。
 政府が保有している経済安全保障関係の重要情報の保全については、「セキュリティー・クリアランス(適性評価)制度」の創設を柱とする新法が成立した。
 政府は、民間が持つ重要情報についても、年内に政省令を改正し対応を強化する方針だ。輸出規制の具体策を急がねばならない。
 経産省は現在、外国為替及び外国貿易法外為法)に基づき、大量破壊兵器などに転用される恐れが強い物資をリスト化し、厳格に規制している。汎用品についても、通常兵器に転用する恐れが把握できれば、企業に通知している。
 新規制は、ロシアや中国などの輸出先で、汎用品が武器の製造に使われる恐れがないか確認するよう輸出元の企業に義務づける。
 「小さなパン屋が高性能のレーザーを数台注文する」といったように疑わしい事例を経産省が例示し、確認作業を促すという。
 ただし、企業の調査能力には限りがある。企業が、意図しないのに結果的に規制に違反して摘発されるようなことがあれば、 萎い 縮しゅく してしまい、経済活動が損なわれることになりかねない。
 政府が必要な情報を積極的に提供し、わかりやすい判断基準も提示していくことが大切だ。
 新たな規制にあたっては、企業の取引を考慮し、センサーやモーターなど安全保障上のリスクが高い製品に対象を限るという。適切に絞り込むことが重要だ。
 また、企業が、外国で合弁事業や製造委託などを行って、先端技術の流出が懸念される場合、事前の報告を義務づける方針だ。経産省が報告を受けた場合、取引先のリスク情報などを企業に提供し、技術流出を防ぐことにする。
 軍事と民生の垣根は低くなり、双方で活用できる「デュアルユース(両用)」の技術が広がっている。企業は軍事転用への警戒感を一段と高めてほしい。