自民党派閥の裏金問題は、民意の怒りを浴び、選挙を通じて政治を揺さぶり始めた。衆院3補選で自民党が全敗するという衝撃的な結果を受けて、岸田文雄首相は衆院の解散・総選挙にも踏み切れないまま退陣の道を歩むのか。経済無策も露呈し、岸田自民党が崩壊する足音が聞こえてきた。AERA 2024年5月20日号より。
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それでも岸田首相の頭の中からは「解散」の二文字が消えない。なぜか。
仮に、このまま解散ができずに通常国会が会期末(6月23日)を迎えたら、その後は9月の自民党総裁選に向けた動きが一気に強まる。支持率が低い岸田首相の下での総選挙は避けたいというのが多くの自民党衆院議員の本音だ。裏金問題で処分を受けた安倍派の議員の中には「岸田憎し」の感情も強まっている。だから、総裁選になれば、岸田氏に代えて新しい総裁・首相を選び、人気があるうちに解散・総選挙に踏み切ってもらいたい。そんな意見が党内の大勢を占めているのだ。
解散なしで総裁選を迎えれば苦戦必至。場合によっては総裁選出馬を断念せざるを得ない。岸田氏はそんな事情を熟知しているからこそ、通常国会中の解散の可能性を探っているのだ。総裁再選を勝ち取って、次の3年間には財政再建や核軍縮など独自の政策を実行したいという「野心」もある。少しでも政権の勢いを取り戻して、解散のチャンスをうかがいたいというのが、岸田氏の本音だろう。そのための課題は二つ。
まず、景気回復だ。今年の春闘では、大幅な賃上げが実現。加えて6月には1人当たり4万円の定額減税(所得税3万円、住民税1万円)が実施される。人々の手取りが増えて懐が温まれば、政権への支持も高まるはず、という期待の声が岸田氏の周辺から漏れてくる。
もう一つが、裏金問題で高まった政治不信を解消するための政治資金規正法改正だ。(1)政治資金収支報告書の虚偽記載などが判明した場合、秘書や会計責任者だけでなく国会議員本人も立件される「連座制」を導入する(2)パーティー券購入の公開基準が20万円超となっているが、一般の寄付と同様に5万円超に引き下げる(3)使途を公開しなくともよい政策活動費を見直す──などが柱だ。自民党内には抵抗もあるが、世論の厳しい反応を受けて、岸田首相が抜本改正に踏み切れるかどうかが焦点だ。
立憲民主党など野党側は連座制の導入や企業団体献金の見直しなどを求めている。ただ、当面は自民党と歩み寄って法改正を実現し、企業団体献金の見直しなどは将来の検討課題とする妥協案も浮上している。与野党が政治資金規正法改正で成果を出して衆院の解散・総選挙に持ち込もうという思惑は、岸田首相と立憲民主党に共通する。